2017年6月23日金曜日

映画に見る宇宙

 まいどー。広報・サイエンス担当の野上です。
昨年度から縁あってとある他大学で非常勤講師をさせてもらっています。かなり有名な私立大学で理系学部もあるところなのですが、私が担当させてもらったのは文系学生向けの「天文学概論」的な講義です。それで昨年度は太陽から宇宙論的な話まで、まじめ~に概論を語りました。私としては大変勉強になりましたし、学生に毎回の講義で書いてもらうコメントを読み、いくつかのコメントに対しては次の講義で少し詳しい解説を行うという形で学生とのコミュニケーションも取れて、非常に楽しい講義でした。
 さて今年度、少しひねった、というか趣味に走った講義にしてみました。講義のサブタイトルに「~映画に見る宇宙~」という文言を入れ、宇宙に関係する映画を3~4回に分けて講義中に鑑賞し、残りの時間を関連する宇宙のことについて講義するというスタイルです。で、映画を見終わる回で関連するレポートを提出してもらいます。
1本目として取り上げたのが、2015年に制作されたオデッセイ。日本でもかなりヒットしたので、観られた方も多いのではないかと思います。火星探査ミッションで火星に取り残されてしまった一人のクルーが、なんとか火星で生き延びるが、さてその救出やいかに?という感じのストーリーです。解説としては、火星やその他の惑星の基本的な情報から入って、様々な火星探査ミッション、現在可能性が模索されている現実的な火星移住計画などの話をしました。
 その上で課したレポートは、
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さてあなたは、
1.人類は火星移住を目指すべきと思うか?
2.火星移住を目指す一人目のパイロットに志願するか?
3.火星移住が可能になったとしてあなた自身は移住するか?
のいずれかについて考察し、レポートとして提出せよ。
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というものでした。これを読んでくださっている皆さんなら、どういうレポートを作成しますか?
 2本目で取り上げたのは「スターウォーズエピソード4 新たなる希望」です。言わずと知れた、スターウォーズシリーズの1977年製作の第1作。この映画では、R2-D2C-3POなどの魅力的なロボット・人工知能が登場します。それで、宇宙からは若干離れますが、人工知能のあらましから囲碁・将棋などの機能特化型AISiriなどの対話型AIなどの話をして、松田卓也さんなどが提唱している2045年問題などの解説をしました。
 その上で課したレポートは、
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さてあなたはどう考える?
1.人工知能の今後の発展についての是非
2.人工知能の発展により社会はどう変わるか?
3.人間と人工知能との恋愛は成立するか?
のいずれかについて考察して、レポートとして提出せよ。
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でした。例えば、人間が仕事を奪われることになるのではないか、というのはよく言われていることではありますが、それはある意味で、労働からの人間の解放とも言えることではあります。AIで人間は楽園を迎えるのか?AIに人間が支配されることになるのか?皆さんならどう考えるでしょう?
 3本目は、地球物理のある先生から貸して頂いたTHE COREという映画です。なぜか地球のコアの回転が止まり、地磁気が消失することで地球上に様々な影響が生じる。さあ、コアを再び動かす手立てはあるのか?というような映画です。あまり知られていないのではないかと思いますが、地球の内部をSFXで見せるという、なかなか面白い映画でした。解説としては、『太陽からの様々な影響から地球を守ってくれているのが地磁気で、確かにこれがなくなればエラいことになる。しかし地磁気がなくなるなんてことがなくても太陽でこれまでに観測されたことのないような「スーパーフレア」が起これば我々の生活は破壊されてしまうかもしれない。そして宇宙に数多ある太陽型星では、そういうスーパーフレアがたくさん起こっていることが我々の研究で明らかになった。』というような話をしました。
 その上で課したレポートは、
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1.太陽でのスーパーフレアに備える準備としては国の施策として何ができると考えるか?
2.太陽でのスーパーフレアが1万年に1度の頻度であるとして、その対策に日本で年に5兆円規模で5年かかるとする。この対策を「今」行う必要があると考えるか?
3.この映画THE COREの感想を書け。
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です。これは今レポートを書いてもらっている段階です。3は、1と2だけだと難しすぎてレポートの提出数が減ってしまうかなあと考えての救済措置みたいなものですが、1や2のテーマで自分で色々と調べてきちんと考えてレポートを書いてくれる学生が果たしているでしょうか?
 ということで、現在行っている非常勤講師としての講義の紹介をしてみました。実はまだ、最後の1本を何にするか決めていません。皆さんから、「この映画でこういうテーマでレポートを出してもらうといいよ!」というご提案をお待ちします。
画像はC-3POのWikipediaのページに載っていたものの転載です。

2017年6月14日水曜日

逆行

 プロマネの栗田です。

 天体を観測していると「角度」の概念の難しさにつくづく気づかされます。多くの方が星や惑星などの天体は地球から離れたある位置、例えば「ここ」とか「そこ」にあると、考えます。もちろんそれは正しいのですが、天体は大変遠いために、位置というよりは地球から見える方向つまり角度のみが観察されます(子どものころは車窓から眺める月とビュンビュン流れる景色をみて「月がずっと追いかけてくる」と考えるものです)。
 僕自身もこの手の問題で混乱しました。正確に言うと混乱させられたと言うべきか。。その一つに惑星の「逆行」があります。これは地球より外側の軌道を回る惑星(火星や木星であり、それらを外惑星といいます)に起こる現象で、天球上を一方向に移動していたはずの惑星が突如方向転換する(ように見える)現象です。詳しくは高校の教科書やWikipediaなどで調べてください、といいたいところなのですが、こどものころから教科書に書かれている説明と図に混乱され続けてきました。
 たとえば、Wikipediaには以下のような図1と図2で説明されます。


図1 教科書にも用いられる逆行の説明図(Wikipediaより)


図2 図1の状況から導かれる天球上での外惑星の見かけの運動。(Wikipediaより) 
図1のような惑星の運動であれば、実際はこのように見えず、次の図3に示すように
A1とA4が、またA2とA5が入れ替わった状況になるはず。


 この説明方法は教科書を含め広く使われています。この図で問題なのは本当は無限の彼方にあるはずの天球が青い太線で地球に対して結構近くに描かれていることです。この天球すなわちスクリーン上での惑星の位置(A1~A5)までを見れば確かに図2の赤線のような逆行を行います。
 しかし、冒頭でもいいましたが、天体も天球も大変遠くにあって、このスクリーンの位置とは異なります。この説明図にずっと違和感を感じてました。このスクリーンの位置はどうやって決めるのだろうかと悩んでしまいます。
 たとえばこのスクリーンがうんと近くて、外惑星のすぐ外側にあったとします。するとAの点群は順番通り並び逆行なんて起きません。また図3のようにうんと遠くにスクリーンがあればA1とA4の順番が入れ替わることもわかります。いったい何が真実なのだろうか。。

      図3 天球(スクリーンを)十分遠くに置いた場合のスクリーン上での位置関係。
      内惑星から外惑星に向かった直線をこれ以上延長しても相互に交わることは無い。
      この図であれば見かけの角度の変化とスクリーン上での位置の変化が比較的対応が良い。



 つまるところ天球すなわちこのスクリーンの位置がおかしい、いやむしろ冒頭に述べたように逆光に関しては天体の「位置」なんて考えること自体が誤解を招き無意味ではないか、と気づくわけです。大切なことは地球(T)から外惑星(P)の見える方向(角度)なのです。それならスクリーンなんて必要ありませんからね。ん~、それにしてもいつまでこの図は使われ続けるのだろうか。。

 この考え方が事実や主流に逆行しているのだろうか。。