2020年1月31日金曜日

織姫星ベガはもうすぐ超新星爆発しますか


 リーダの長田です。
 京大では、人社系研究紹介フリーペーパー「ACADEMIC GROOVE Vol.1 SIGNAL」を発行しました(2019111日)
https://www.kura.kyoto-u.ac.jp/act/622
とあり、たしかに黒っぽい冊子が生協の食堂にも置いてあります。どうやらメインは、理系研究者が書く「貴方にSIGNALを与える起爆書ガイド」というところで、理学研究科でも生物の教授(私の一つ上と思います)が、自分の大学生時代には「二十歳の原点(高野悦子)」を誰もが持っていた、と書かれています。  私の大学時代はと言えば、今のNHKEテレ「100分で名著」に出てくるような本を読みあさってもいましたが、ふと思い出したのはハヤカワSF文庫のペリー・ローダンです。ドイツ生まれのスペースオペラ、日本での出版も2019年末で1200話を超えているとのことで、日本版の刊行が始まったのは1970年代だったのでした。ウィキペディアでも、単に作品としてだけでなく、「宇宙英雄ペリー・ローダン作品一覧」などという項目まであります。かつて、ギネスブックで「世界最長の小説シリーズ」とされていたと聞きます。
 ドイツでの第1話は1961年、アポロ計画をほうふつとさせる人類初のアメリカの月着陸船に搭乗したペリー・ローダン少佐が宇宙の高度知性体と遭遇し、人類が銀河種族となって行く話です。おそらく私は150(日本版で75)ぐらいまで読んだのではないかと思います。その第10話は「決戦!ヴェガ星域」で、その後(1975年)太陽系帝国は、27光年を超空間ジャンプで一気に飛び越え、ヴェガ星系にある42個の惑星のいくつかに基地を築きます。しかし、なぜか第19話「宇宙の不死者」ではヴェガが膨れ上がって爆発しそうになるのです。それはまあ、恒星の運命も変えてしまうこともできる極めて高度な技術を持った知性が、生命を不死にする話につながって行きます(ローダンが不死になってくれないと、ドイツでの数千話、日本での1200話にならないわけです)。150話ぐらいで終わっている私には想像もつきませんが、さらに人類は、アンドロメダ銀河まで遠征したりM87銀河の支配種族とやり合ったりして行くようです。
 さて、最近のアウトリーチの講演で良く聞かれるのは、「オリオン座の赤い1等星ベテルギウスは近々に超新星爆発しますか」という質問です。ベテルギウスは年齢1000万歳、星の進化の最終段階に来ている、質量が太陽の10倍の赤色超巨星です。しかも2019年の末には急激な明るさの減少が観測され、何かが起こっている、すわ超新星爆発?とのニュースが流れました。N新聞の方からも「ベテルギウスの超新星爆発をせいめい望遠鏡で観測したいですね」と年賀状をいただきました。私も観測したいです! ただ、たしかに終焉が近いとは言うものの、例えば1000年の文明が滅びつつある、という時に、そういう予兆が出ても999年で滅びるのか1000年まで生き延びるのかわからないように、およそ1000万年の寿命のうちで今夜超新星爆発があるのか、1万年後なのか、それはわからないというのが、ほとんどの天文学者の考えでしょうね。


画像の説明:
ヨーロッパ南天天文台による、ベテルギウスの想像図。右に見える尺度は太陽系での天王星、海王星の軌道に相当する長さまで描かれており、超巨星ベテルギウス(太陽から木星までの距離ほどの大きな半径を持つ)から、ガスがそういった遠方までも湧き出している様子が想像されている(著作権 CC 4.0の画像)。

 織姫星ベガの方は、質量が太陽の3倍足らず、ガスが流れ込んでくることもなく、おそらく何億年か後には静かに恒星としての一生を終えて行くものと思います。想像を絶する宇宙の知性体がペリー・ローダンの行く手に現れない限りは。








2020年1月10日金曜日

日本天文学会天文功労賞


サイエンス担当の野上です。

あけましておめでとうございます。
昨年はせいめい望遠鏡の共同利用が始まりました。正直なところ、いろいろな点で見切り発車のようなもので、ソフト面・ハード面とも大小さまざまなことがあり、なんとかかんとか切り抜けてきた感じです。それでもトラブルに対応しながらだんだんと望遠鏡全体としての性能も上がってきて、観測もそれなりに順調に行えるようになってきており、ぼちぼち成果が上がってきています。今年はどーんと発表できるような成果を期待しましょう。私も頑張ります。今年もどうぞよろしくお願いします。

さて、私は日本天文学会の天体発見賞選考委員を10年ほど務めています。
この賞の歴史は古く、天文学会の天体発見賞受賞者名簿を見ると1936年から始まっているようです。初期は彗星の発見が多かったのですが、だんだんと新星・超新星に移行してきています。ここで表彰されているのは、いわゆるアマチュアの方々です。発見された天体を見ると、確かにその分野の研究が大きく進む契機となった天体が含まれています。
アマチュアの方々の活躍が今でも先端を切り拓く可能性のある研究分野は多分多くなく、これも天文学の魅力の一つなのでしょう。こういう天体発見における日本人アマチュアのレベルは世界一と言ってよく、その源流の一つである花山天文台の初代台長・山本一清氏のアマチュア育成の功績はいくら強調してもしすぎることはないでしょう。

そして天体発見賞選考委員会は、天文功労賞の選考も行ないます。これは、「天文観測活動等が天文学の進歩及び普及に寄与した、天文学研究を主たる業務としない個人、または団体を対象に、長期的な業績と短期的な業績に分けて表彰」するという制度です。この長期部門の選考で、私はいつも大きな感動を包まれます。

この10年の長期部門の受賞者転載します。
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18(2018) 吉田誠一
 彗星観測データベースのオンライン普及と新天体自動捜索プロジェクトの主導
17(2017) 冨岡啓行
 小惑星による恒星食の多数回観測と小惑星の衛星の検出
16(2016) 藤森賢一
 60年以上の長期にわたる太陽活動の観測
15(2015) 永井和男
 長期にわたる変光星の観測,自作ソフトウェアの公開、及び変光星観測者の育成指導
14(2014) 宮坂正大
 長期にわたる太陽系内小天体の位置観測と物理観測の指導普及活動、プロ-アマ協調における研究観測
13(2013) 堀川 邦昭
 長期に及ぶCMTによる木星面諸現象のドリフトの定量的観測の継続
12(2012) 前川公男
 長期にわたる電波ビーコン発信による流星電波観測への貢献
11(2011) 浜野和弘巳・浜野和博子
 長期にわたる緻密なライトカーブ観測による小惑星研究への貢献
10(2010) 門田健一
 長期にわたる膨大な数の彗星観測および新天体確認への貢献
9(2009) 板橋伸太郎
 60年にわたる太陽黒点観測
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 こんなんですよ!皆さん10年、20年と続けられていて、中には60年以上なんて言葉も出てきています。本当に長期にわたって、本業でもないことに時間もお金もかけて、コツコツとやり続ける方がおられるわけです。その情熱に胸を打たれます。本当に頭が下がります。きちんとその活動を認め、表彰する天文学会も素晴らしいと思います。

 さて、先日2019年度の選考委員会が開かれ、天体発見賞も天文功労賞も推薦する方が決まりました。正式な決定は113日の天文学会代議員会で決まるのでここでは明かせませんが、ふさわしい方となっていると思います。

 こういう方々を「選考する」という、大変おこがましいことをする委員に私も名を連ねているわけです。精進しなきゃいけないなあとわが身をふり返させられる年末年始が、この10年続いています。

 写真は正月らしく初日の出。
のトップページにあるものです。新年早々無断転載すいません。