2019年4月26日金曜日

アナログ麻雀


 光学など担当の岩室です。

 今回は麻雀の話です。麻雀をご存知ない方はかなり意味不明な内容だと思いますがご了承下さい。

 「麻雀」と言えば昔は学生の社会勉強のツールの1つとして、私の感覚では学生の4人に1人位はやっていたように思いますが、近年では麻雀のようなアナログ的な遊びは減り、京大周辺に山ほどあった雀荘もほとんど見かけません。ネットによると、麻雀人口は現在も減少中で500万人程度との事ですが、3040年前のピーク時は雀荘数も現在の4倍あったとのことなので、麻雀人口も2000万人とまでは行かなくても1000万人以上はいたものと思われます。社会勉強のツールとして、場合によっては就職時に役に立つ可能性があったという事もこの数字であれば納得できます。

 私が麻雀を覚えたのは小学校3年の時(1974)ですが、本格的に打ち込んでいたのは学部生〜院生時代です。まあ、ここで個人的な事を書いてもつまらないので、私の経験上、麻雀を打ち続けると人間はどのように進化していくのかを書いてみます。

レベル0:ルールだけ覚えた初心者でやたら見栄えの良い手を目指す
レベル1:手牌だけ見た際の手作りの方針がある程度見えてくる
レベル2:場に出ている残り牌数も顧慮して最善の手作りが選択できる
レベル3:防御を意識した手作りができるようになる
レベル4:場の空気を意識した手作りをできるようになる
レベル5:個々の相手のクセや性格まで顧慮した読みができるようになる
レベル6:相手3人と卓上全ての情報を完全に掌握し神レベルの判断ができる

 麻雀は運任せの捲り合いのような印象を持たれて居る方も多いかと思いますが、私の持論では「攻撃は運、守備は実力」です。ここで言う「守備」は危機を察知して安手で流したり、他人にその役を負わせるような流れを作る事も含みます(攻撃的守備というやつです)。即ち、守備にはかなりの観察眼が必要で、レベルが高いメンバー同士だと時には阿吽の呼吸で連携した守備となることもあります。

 上記レベルをゲーム風に攻撃力/守備力の数値として表現すると、

レベル0:30/ 0
レベル1:60/10
レベル2:90/20
レベル3:80/40
レベル4:70/60
レベル5:70/80
レベル6:80/99

という感じで、実は攻撃力は結構早くに頭打ちになって、守備を考えない状態が攻撃力が最も高く、守備を加える事で攻撃力は低下します。それに対し、守備は極めて難しく、守備力=相手を観察する時間+麻雀理論+メンタリスト的能力の数値となります。初めに相手が配牌を見た時の表情、手牌並べ替えの速さ、対局中の目線、言動を含む挙動の違和感など、捨て牌以外にも様々なところを観察して、相手の手役が自分の手役より高いのか安いのか、相手の手役の進行状況は早いのか遅いのかなどを読み取らなくてはなりません。
メンタリストの daigo が麻雀をするのかどうかは知りませんが、彼が麻雀をしたらさぞかし強いのではないかと想像します。麻雀が強い人というのは非常に多くの回数を打った時に平均的に強く、ほとんど大負けをしません(他3人のツモり合戦になった時のみ大負けはあり得ます)

 麻雀を囲んで最も面白いのは、上記レベル2〜4だけでの対戦の場合です。レベル1の人は常識通りに手作りを進めないことも多々あるので、捨て牌や表情から手役を読むと読んだ側が痛い目に合うことがあり、麻雀の面白さが半減します。まあ、新人教育という意味で1人まででしょう。逆にレベル5以上の人が多くなると、化かし合いの心理戦の様相になります(プロのリーグ戦は多分このレベルでしょう)。こうなると結局は墓穴を掘る人が現れず、運任せの捲り合戦になって精神的にかなり消耗します。それに対し、レベル2の人は攻撃力も上がって一番楽しい頃でしょうから、そういう人を観察しながらうまく場を制御して、危険な勝負は人に任せて(もしくはそうなるように仕向けて)安全で確実性の高い勝負のみを制して流れを自分に持ってこられたら、これぞ麻雀の醍醐味と言える瞬間です。

 近年、上記のようなアナログ的麻雀をする機会はめっきり減り、ここ数年はネット麻雀のみです。ネット麻雀の悪い所は、相手の様子が全くわからないため、場の空気が半分も読めない事です。私は自身では上記のレベル 4.5 だと思っていますが、ネット麻雀ではレベル3が上限の戦いになります。対局が早いのはいいのですが、醍醐味はありません。隠居したら、またアナログ麻雀の場に戻って楽しみたいなと考えております。因みに私はネット麻雀では1年ほど前から「REVOを使っています。氏名から平仮名で4文字を抜いた名前で東南戦特上卓でたまに夜中に参戦しています。無料会員だと全て6秒以内に判断しないといけないので、常に2通り以上の展開を想定しておく必要がありますが、特上卓は大体が上記のレベル2〜3での争いなので、醍醐味はなくてもまあまあ遊べます。

おまけ1:
麻雀に関して更に詳しい人のために、各レベルのもう少し詳しい解説を付けておきます

レベル0:国士無双、四暗刻、字一色は皆さん目指しましたよね
レベル1:辺張<嵌張<両面を意識してやたら中央に寄せた手作りをします
     鳴き仕掛けの場合は対々や混一の比率が格段に上ります
レベル2:手役よりもスピード重視の傾向になります
     役牌は必ず一鳴きで基本的に全局攻めです
レベル3:ある程度の押し引きや回し打ちができるようになります
     親の安全牌を顧慮して雀頭や塔子を残したり自風を長く持ったりします
レベル4:この辺りから自分の手よりも相手の様子の観察時間の方が上回ります
     当たり牌になりそうな牌をそうなる直前に切り出す事を意識するようになります
レベル5:レベル2の相手の手の内が大体見えるようになります
     場の危険度を早々に察知するのでこのレベルが2人居ればまず役満は出ません
レベル6:私はこのレベルの人には過去に2人しか出会ったことがありません
     超人的な判断力は理解不能で完全伏牌であっても手積みで勝負しては絶対ダメです

おまけ2:
スーパーヅガンが懐かしいですね。豊臣くんとか結構言う事は正しくて共感が持てるのですが、あの気の毒感がいいです。
ぎゅわんぶらあ自己中心派もその時々の話題のツボが麻雀と融合していて面白かったです。80年代の世相をご存知の方で麻雀が好きな方は、是非一度読んでみるといいと思います。

2019年4月12日金曜日

マルチメッセンジャー天文学事始:高エネルギーニュートリノ源天体探査狂騒記


201941日は、新年号「令和」の発表で大騒ぎであったが、重力波業界では、米国のアドバンスド・ライゴ(advanced LIGO)とヨーロッパのアドバンスド・バーゴ(advanced VIRGO)等が連続観測を開始し(O3ランという)、連星ブラックホールや連星中性子星の合体による重力波がこれまでにない高い頻度で検出されるだろうということで、興奮状態の人が多いようである。J-GEMチームでもこの日から毎晩当番を決めて終夜待機ということになっている。この文章は当番中に書いている。

前回、「次回はマルチメッセンジャー天文学の一端として、私自身がかかわってきた、観測のドタバタ劇(突然出現し、かつ、これまでとは違う局面が多く、ドタバタ劇となってしまう・・・)の一部を紹介し、3.8m望遠鏡への期待を書こうと思ったのであるが、(中略)次回以降にいくつか紹介しようと思う。」と書いたので、高エネルギーニュートリノ源の可視対応天体探しの話の一部を一席。

時は、2017923日朝(日本時間:土曜だけど秋分の日)、千葉大学の吉田さん(IceCube実験をしている方)からメールが来て、下記の図と共に、「これは、かなり信号くさいイベントです」とのこと。これに対して、米国ペンシルバニア州立大学の村瀬さん(高エネルギー天体物理の理論家)も、「これはかなり綺麗なイベントですね」とのコメントメール。そこで、我々は兼ねてからの手はずでこのニュートリノ源の可視対応天体探しを開始することにした。

ニュートリノ源の位置の不定性は角度で1度ほどあり、通常の可視望遠鏡ではこのような広い視野をさっと観測することはできない。しかし、高エネルギーニュートリノ源の候補としては数種類の天体種族が有力であるので、我々は、これらの種族のうちBLAZAR(ブレーザー)と呼ばれる活動銀河核をねらうことにしていた。高エネルギーニュートリノの100%BLAZAR起源ではないことは分かっていたが、20%くらいはこの種族である可能性が指摘されていた。5回に一回位は正解かもしれないというわけである。また、BLAZARは1平方度に数個程度しか存在しないので、個別に観測していくなら視野の広くない望遠鏡でも、増光しているかどうか観測することができる。

まず、すばる望遠鏡を利用することを考えたが、しばらくはToO観測をかけられない期間であったので断念。大学関連携ネットワークを用いて、いくつかの望遠鏡に観測依頼するも、天候にも恵まれずあまり観測できなかった。広島大学の田中氏は、かなた望遠鏡(1.5m)を用いて翌夜から近赤外撮像観測を行なった(実際の観測は院生が行なった)。院生は、慣れないデータ解析に手間取ったそうで結果はすぐには分からなかった。926日には私は国立天文台三鷹に出張だったが、その場で田中氏と落合い、かなたで観測・データ処理を行なっていた院生から結果報告をメールで受け取った。あるBLAZARで増光か減光が見られたとのメールだった。増光か減光か分からない理由は、どの日に撮った画像からどの日の画像を差し引いたかわからなくなったからだそうである。嗚呼なんてこった。その院生は今からゼミ合宿なので、確認作業をする時間がないと言うので、お手上げ状態となった。しかし、いずれにしても変光しているということである。田中氏は、ガンマ線衛星Fermiのデータのアクセス権があったので、27日に、この「変動」BLAZARの最近の明るさを簡易的にチェックしたところ、なんとここ2-3ヶ月ほど大きく増光していることが判明した。慌てて天文電報(昔は本当に電報だったが、今はメールで)ATELに速報を出した。そうだとすると可視でも激しい短時間の変光があるかもしれないので、28日には院生の磯貝君に頼んで、京大屋上の40cm1分程度の露出を繰り返して撮像することを試みた。が、残念ながらさほど激しい変動は見られなかった。上記ATELの結果を見てか、29日にはASAS-SNチームが、ここ数年の期間でみると、可視では最近明るい状態にあることを報告してきた。

 ところで、9月末はGEMINI望遠鏡の観測申し込みの締切があるし、105日にはすばるのサービス観測の締切があるので、これで追究観測を行う提案を書くかどうか思案していた。この天体はほとんど無名の天体だったので、これについて例えば分光データがあって赤方偏移(距離)が決まっているのか、といった情報を収集しないといけない。系外天体のデータベースであるNEDには何も載っていなかった。分光データは距離を求めるのに必須なので、西はりま天文台のなゆた望遠鏡(2m)やかなた望遠鏡に分光観測を依頼して、930日には結果をもらったが、特徴的な線は見えず、なんだかよくわからない。やはりすばるに申し込むべしとプロポーザルを準備していると、103日に、宇宙研の井上氏が、あるカタログにはz=0.336と書いてあると言い出した。でもよく調べると、その根拠がはっきりしないので、そのカタログの著者に直接問い合わせたら、「出所不明」との返事。これがすばる締切1分前。相手の天体は14-15等級というすばるにとっては非常に明るい相手なので、世界に先駆けてとっとと距離を出そうと意気込んで、知り合いを伝ってすばるで少し分光することになった。だが、何の線も見えなかった。このことはBLAZAR種族の中でもBL Lac型であることを示していることになって一定の結論は出たものの距離は決まらなかった。距離はそれから数ヶ月後10m望遠鏡で10時間も積分してようやく判明した。なぜか赤方偏移は0.3365と、上記ガセネタはガセではなかったのかもしれないが真実は藪の中。105日のすばる締切直後にMAGIC望遠鏡でこの天体からのガンマ線を検出したとATELに流れた。その後、Fermiのデータでいろいろと詳細な解析が行われ、4シグマ位の確率でこの天体が起源天体と考えられることがわかってきた。

太陽、超新星といった比較的低エネルギーのニュートリノはこれまでも検出された例があるが、これらより何桁も高いエネルギーのニュートリノ源の同定は(ほぼ)初のことであり、しかも約40億光年もの彼方の活動銀河核であることがわかった事は、非常に大きな一歩と言えるであろう。
  
太田 20194月4日
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追記:49日、O3の最初の重力波検出があり、重力波の解析からは、距離約50億光年の連星ブラックホールだったらしい。




IceCube 170922イベント (世界時なので922日)