2017年12月28日木曜日

流星の音

流星の音ってなんや?と言われそうであるが、文字通り流星(流れ星)の音である。流星が流れた「瞬間」に「ザー」とか「シュー」「パチパチ」等の「音」を聞いたことがあるという人が時々いる。流星の音は古くから知られていて、中国の史記にも、音のする流星を「天狗」と呼ぶといった記述がある。(但し、これは極めて明るい流星で火球と呼ばれるものかもしれない。図参照) 私も、高校生の時に一度だけ「聞いた」ことがあり、以来ずっと気になっている。

流星は本当に星が流れる現象ではない。宇宙から地球に落ちてきた小さな塵が猛スピードで地球大気に突入し、地表100km付近で発光し、これが流星として見える。音は音速で伝わるので、仮に流星が本当に音を出したとしても、流れてから何分か経たないと聞こえないはずである。ところが、流星が流れると同時に聞こえるので、この「音」はほぼ光速(電磁波の速さ)で伝わるということになる。すると、「電波が聞こえる」という話になるので、アブナイ人と思われる。

しかし、電波は「聞こえる」らしい。マイクロ波を周期的に人間に照射するとその周期に同期したクリック音がするという実験があるらしい。これは、脳内でマイクロ波が水を温めることで発生する振動が音として認識されているということらしい。ただ、これが流星の音の原因だとすると、単純計算では極めて強度の大きな放射エネルギーが必要で、流星がそんな巨大なエネルギーを放射するとは考え難い。と、いうことで私には依然として謎のままであった。

さて、2017126日に、京大理学部の2回生数人がオーロラの音についてアラスカで調査してきた報告会があって、私も出席した。オーロラも100km以上の上空にあるものであるが、昔から音が聞こえるという話がある。それを「聞き」、そして各種測定をしに行ったというものである。工夫や考察にみちた大変面白い話であった。その行動力、研究内容には大変感心したが、その中で流星の音に関する新しい説が論文になっていることを知った。(Spalding et al. 2017, Scientific Reports, vol. 7, 41251 doi:10.1038/srep41251)

この論文では、光の強弱の振動が人間の身の回りのもの(髪、服、木の葉等)を暖めて、それが振動を起こし、耳に聞こえるという新説を提唱している。実験も行い、5W/㎡の光を1kHzで明滅させ、その横に黒いフェルト、屋根のタイル、松の木、緑葉などを置くと、だいたい数10 dB SPLdB Sound Pressure Levelはいわゆる騒音を測る際に用いられるデシベル)の音がしたという報告である。理論的な粗い計算とも矛盾しないという。つまり人間の耳で十分聞こえるというわけである(通常の会話では40-50デシベルらしい)。なかなか面白いが、ただ、この論文で報告されている例は、いわゆる火球というべき、非常に明るい流星のモデル化であり、普通の流星ではそこまで音は聞こえないのではないかと思われる。また、流星の場合、聞こえないことが一般的なので、聞こえる条件は何なのか?まだよくわからない。

太田 20171226







史記、天官書第五の一部。これを見ると、
何かが落ちてきた形跡があり(有聲の後)、
流星というより火球、
そして隕石のように見える。








2017年12月15日金曜日

惑星の多様性についてつらつら思うこと

 今、理学部3回生向けに「惑星物理学」の講義を毎週木曜日にしています。以前は「恒星物理学」の講義を担当していました。惑星と恒星、どちらも夜空に光る星ではありますが、講義の内容(というか傾向)は随分違います。

 恒星物理学は、20世紀前半にその内部構造についての基本が確立しました。基本方程式がたてられ、それを基に恒星進化計算がなされ、観測との比較研究が進み、精緻なレベルで理解が進んでいます。したがって、「恒星物理学」は、「これが基本」「ここからこんな知見が得られる」というトップダウン的な講義になります。

 一方で惑星物理学はそうはいきません。実に多様性豊かで定型がほとんどありません。恒星と惑星でどうしてそんなに違うのか。いろいろ理由があります。たとえば恒星内部でガスは、ある決まったふるまいを示しますが(専門用語で「状態方程式が決定する」といいます)、惑星内部の主成分である岩石や金属、その混合物の状態やふるまいは、複雑でそう単純には記述できません。また、太陽系惑星の場合、探査が進んでその違いがはっきりしていることも、惑星の多様性が目立つ一つの理由かもしれません。そもそも、地球と金星を比べてみても、大きさや質量はほぼ同じ、太陽からの距離もそう大きく違わないにもかかわらず、性質は随分違います。「惑星は個性だ!」とつくづく思います。

 惑星の学びでは、その世界を(人ごとでなく)いかに身近に感じるかが重要に思います。そこに旅行したらどんな気分になるだろうか、どんな風景が広がっているのだろうか、などと想像してみることは楽しみであると同時に、宇宙や天体に関する理解にもつながると(勝手に)思っています。


 幸いなことに、太陽系の惑星や衛星の画像がネットから簡単にとってこれるようになりました。添付の図は火星の風景です。いずれ人類が火星に移住したとすれば(想像してください!)、余暇にこんな場所に出かけることができるようになるかもしれません。

嶺重 慎


画像:クレーターの底に広がる砂丘
PHOTOGRAPH BY NASA, JPL, UNIVERSITY OF ARIZONA