2018年12月20日木曜日

ド近眼

光学など担当の岩室です。

 今回は近視の話です。
私は実は「超」の付く近視で、日常生活はコンタクトとメガネが半々の生活です。母親も超近視でしたので、その遺伝のせいか小学校低学年の頃から年々視力が低下し、中学3年時には視力が 0.01 になりました。視力 1.0 は、5m 先にある視力検査板の下の方の "C" (ランドルト環というそうです)の 1.5mm のすきまを識別できる視力で、角度に換算すると1分角(60分の1°)となります。視力検査板の一番上にはその10倍サイズの "C" があり、これが見えると 0.1 なのですが、私はこれが見えた記憶がありません。これが見えないと、見えるところまで前進となります。50cm まで近づいたところでやっと一番上の識別ができ、これが視力 0.01 となります。ちなみに、1.0 用の "C" は 5cm まで近づかないと識別できません。

中学3年の時上記の状態となり、医者から「行くところまで行きましたので、これ以上近視にはならないでしょう」と診断され、メガネも究極のビン底メガネだったので、中学の最後にコンタクトレンズにしました。今思えば、なぜここで近視が止まると医者が予言できたのか非常に不思議ですが、昔は結構高価だったコンタクトをタイミングよく作ることができ、的確な診断だったと思います。この時作ったコンタクトは -16D という特注の凹レンズです。

メガネやコンタクトの強さを表す数字は、焦点距離の逆数です。すなわち、-16D のレンズは 16分の1m の焦点距離で 6.25cm の結像点を無限遠に遠ざける凹レンズとなります。ところで、視力 0.01 は上述の通り 1.0 の "C" が 5cm に近づかないと識別できないので、この値から逆算すると 1m÷5cm=20、-20D のレンズが
必要のように思われますが、視力 1.0 まで矯正すると目にきつすぎるので、若干弱めて作ったのだと思います。これでも、その頃は特注品でないと対応できない度数だったので、製作に1週間くらいかかっていました(最近はこのくらいまで標準品で準備されているようですが)。

ここまで読むと、私の悲惨な目の状況を訴えているかのように読めますが、実は私はこの視力に非常に満足しています。なぜなら、細かい作業を行うには最強の目だからです。上記の最も目が悪かった頃は、焦点距離 2cm 位まで近づいて見る事ができました。これは、カラーテレビの3原色の画素構造やミジンコの内部構造を容易に確認できる距離です。つまり、20cm くらいまでしか見る事の出来ない人よりも10倍拡大して見えるというわけです。今でこそ、老眼が進んで視力が "回復" してきましたが、まだ 5cm 位の距離で見る事ができます。下の写真は私が見る針の穴の様子を示していて、こんな感じで大きく拡大して見えますので、例えば、自分の髪の毛を5回連続して針の穴に通すことなどお易い御用です。

装置開発では細かい作業は頻繁に出てきます。直径 1mm の平凸レンズを向きを間違えないように穴に入れ、バネを切断して作った 1mm サイズのC リングで固定したり、細かいハンダ付けの出来具合を確認したり、接着剤を剥がした後の残りが無いことを確認したりなど、ルーペなしで0.1mm サイズを識別できる目は非常に役立っています。時計職人にも譲ってあげたいくらいです。時計職人は +16D の凸レンズのコンタクトを使えば、ルーペよりも遥かに広い視野で拡大像が得られますので、上手く使えば非常に作業効率が上がると思いますが、集中作業時は瞬きの回数が減りますので、その点コンタクトは不向きで(コンタクトは乾燥すると色々と不具合が起こります)、やはり裸眼が一番です。これを読んだ超近視の皆さん、特に若い人は細かい作業を行う仕事に
就くことを考えてみてはいかがでしょうか。