2018年12月20日木曜日

ド近眼

光学など担当の岩室です。

 今回は近視の話です。
私は実は「超」の付く近視で、日常生活はコンタクトとメガネが半々の生活です。母親も超近視でしたので、その遺伝のせいか小学校低学年の頃から年々視力が低下し、中学3年時には視力が 0.01 になりました。視力 1.0 は、5m 先にある視力検査板の下の方の "C" (ランドルト環というそうです)の 1.5mm のすきまを識別できる視力で、角度に換算すると1分角(60分の1°)となります。視力検査板の一番上にはその10倍サイズの "C" があり、これが見えると 0.1 なのですが、私はこれが見えた記憶がありません。これが見えないと、見えるところまで前進となります。50cm まで近づいたところでやっと一番上の識別ができ、これが視力 0.01 となります。ちなみに、1.0 用の "C" は 5cm まで近づかないと識別できません。

中学3年の時上記の状態となり、医者から「行くところまで行きましたので、これ以上近視にはならないでしょう」と診断され、メガネも究極のビン底メガネだったので、中学の最後にコンタクトレンズにしました。今思えば、なぜここで近視が止まると医者が予言できたのか非常に不思議ですが、昔は結構高価だったコンタクトをタイミングよく作ることができ、的確な診断だったと思います。この時作ったコンタクトは -16D という特注の凹レンズです。

メガネやコンタクトの強さを表す数字は、焦点距離の逆数です。すなわち、-16D のレンズは 16分の1m の焦点距離で 6.25cm の結像点を無限遠に遠ざける凹レンズとなります。ところで、視力 0.01 は上述の通り 1.0 の "C" が 5cm に近づかないと識別できないので、この値から逆算すると 1m÷5cm=20、-20D のレンズが
必要のように思われますが、視力 1.0 まで矯正すると目にきつすぎるので、若干弱めて作ったのだと思います。これでも、その頃は特注品でないと対応できない度数だったので、製作に1週間くらいかかっていました(最近はこのくらいまで標準品で準備されているようですが)。

ここまで読むと、私の悲惨な目の状況を訴えているかのように読めますが、実は私はこの視力に非常に満足しています。なぜなら、細かい作業を行うには最強の目だからです。上記の最も目が悪かった頃は、焦点距離 2cm 位まで近づいて見る事ができました。これは、カラーテレビの3原色の画素構造やミジンコの内部構造を容易に確認できる距離です。つまり、20cm くらいまでしか見る事の出来ない人よりも10倍拡大して見えるというわけです。今でこそ、老眼が進んで視力が "回復" してきましたが、まだ 5cm 位の距離で見る事ができます。下の写真は私が見る針の穴の様子を示していて、こんな感じで大きく拡大して見えますので、例えば、自分の髪の毛を5回連続して針の穴に通すことなどお易い御用です。

装置開発では細かい作業は頻繁に出てきます。直径 1mm の平凸レンズを向きを間違えないように穴に入れ、バネを切断して作った 1mm サイズのC リングで固定したり、細かいハンダ付けの出来具合を確認したり、接着剤を剥がした後の残りが無いことを確認したりなど、ルーペなしで0.1mm サイズを識別できる目は非常に役立っています。時計職人にも譲ってあげたいくらいです。時計職人は +16D の凸レンズのコンタクトを使えば、ルーペよりも遥かに広い視野で拡大像が得られますので、上手く使えば非常に作業効率が上がると思いますが、集中作業時は瞬きの回数が減りますので、その点コンタクトは不向きで(コンタクトは乾燥すると色々と不具合が起こります)、やはり裸眼が一番です。これを読んだ超近視の皆さん、特に若い人は細かい作業を行う仕事に
就くことを考えてみてはいかがでしょうか。

2018年11月30日金曜日

マルチメッセンジャー天文学事始:マルチメッセンジャー天文学って何ィ?


マルチメッセンジャー天文学。聞きなれない言葉かもしれない。宇宙を調べる手段として、隕石、惑星探査、宇宙線等を用いるアプローチもあるが、人類の歴史上、ほとんどは電磁波によるものであったと言ってよいだろう。特に、可視光、つまり目で見える光(可視光も電磁波の一種である)による研究は、数千年の歴史がある。1930年代頃から電波を用いた宇宙の探査が始まり、1960年代頃からは、赤外線やX線でも宇宙を探るようになってきた。その後、ガンマ線での観測も進み、今や、電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線と、電磁波のほぼ全波長域での研究が行なわれている。

 近年、電磁波以外の宇宙を探る手段として、電気的に中性で透過力の高い素粒子であるニュートリノ(中性微子)と重力波が登場してきている。これらは、電磁波を含め、天体あるいは宇宙からの情報を伝達する役割を果たしていることから、伝達者(メッセンジャー)と呼ばれ、いろいろな伝達者という意味で、マルチメッセンジャーと呼ばれている。そして、これらを複合して宇宙を探る天文学をマルチメッセンジャー天文学と言うようになってきた。(今のところよい日本語訳がないので、カタカナで「訳」されている。)

 重力波については、米国のアドバンスド・ライゴ(advanced LIGO)という(2台の)重力波干渉計が2015914日(世界時)に人類史上初の重力波検出に成功し、質量が太陽の30倍程度のブラックホールの連星であることがわかった。重力波天文学の幕開けである。(1960年代にも重力波検出の報がいくつかあるが、現在のところそれを信じている人はいないと言ってよいだろう。また1970年代には、中性子星の連星を用いて間接的に重力波の検出に成功しているが、直接検出という意味では、初検出である。)その後、2017817日の検出では、電磁波による追究観測によって対応天体も同定され、約1億光年かなたの中性子星の連星の合体であったことがわかった。また、この合体によって、ある種の重い元素(金!やプラチナ!も)が作られたこともわかってきた。重力波天文台は、現在上記以外にヨーロッパのアドバンスド・バーゴ(advanced VIRGO)が稼動開始し、もうすぐ日本のカグラ(KAGRA)も参加予定であり、日常的に天体からの重力波を検出する時代になりつつある。

一方、電気的に中性の素粒子であるニュートリノ(中性微子)の観測も1960年代に始まり、太陽からのニュートリノを検出し始めた。1987年には、大マゼラン銀河で爆発した超新星からのニュートリノを、日本のカミオカンデ等が検出したことから、太陽以外の天体からのニュートリノも初めて検出され、本格的ニュートリノ天文学の幕開けとなった感があった。ただ、その後我々の近傍では超新星爆発もなく、太陽以外の天体からのニュートリノの検出はなかった。しかしここ数年の間に、南極にあるアイスキューブ(IceCube)が遠くの天体からやってくると思われる高いエネルギー(カミオカンデの9桁程度高いエネルギー)のニュートリノがいくつも検出されるようになってきた。2017922日(世界時)に検出されたニュートリノ(ニュートリノイベント)については、約40億光年の距離にあるブレーザーと呼ばれる活動銀河核の一種であることが(ほぼ)確実となった。この研究には日本の光赤外大学間連携のメンバーも本質的な寄与をしたのだけど、今日はその話はおいておく。アイスキューブの検出する高エネルギーニュートリノの起源天体探しは世界中で行なわれるようになり、いよいよ本格的なニュートリノ天文学の幕開けになるのではないかと期待される。

このように、21世紀に入って、伝統的な電磁波による天体の研究以外に、ニュートリノや重力波による研究が始まり、これまで人類が想像もしなかった宇宙や天体の姿が明らかになっていくのではないかと期待される。マルチメッセンジャー天文学の重要性が高まっていると考えられる。3.8m望遠鏡も、マルチメッセンジャー天文学推進の重要な望遠鏡になると期待されている。今回はマルチメッセンジャー天文学の一端として、私自身がかかわってきた、観測のドタバタ劇(突然出現し、かつ、これまでとは違う局面が多く、ドタバタ劇となってしまう・・・)の一部を紹介し、3.8m望遠鏡への期待を書こうと思ったのであるが、マルチメッセンジャー天文学とは何かということを書いているうちに紙幅も尽きたので、次回以降にいくつか紹介しようと思う。

太田 20181128



2018年11月16日金曜日

パチンスキー氏の思い出

 先月、久し振りにポーランドを訪れました。ブラックホールに関する国際会議に出席・講演するためにです。その研究会の主催者代表マレック・アブラモウィッツ氏は、基調講演の中である先達の名前をあげ、「自分の研究の原点はここにある」と切々と述べました。その人の名はボーダン・パチンスキー、ポーランド出身の天文学者です。長らく米国プリンストン大学教授として世界の天文学研究に大きな影響を与えておられましたが、惜しくも10年ほど前に病に倒れ、帰らぬ人となりました。

 ポーランドには何度も訪れたことがあります。一回目は1990年、どういう年だったか覚えている人がおられるでしょうか。この前年、ベルリンの壁が崩壊しました。自由化された直後のポーランド訪問でした。

 「チェコスロバキアやユーゴスラビア(当時)など、数ある東欧諸国の中で、なぜポーランドだけが天文学研究で突出しているのだろうか?」ふとこういう疑問をもって研究者に聴きました。結局、答えはよくわからなかったのですが、「コペルニクス依頼の伝統が根付いている」としかいいようがなさそうです。

 その中でパチンスキー氏の貢献は大きかったと言えます。パチンスキー氏は、恒星進化からガンマ線バースト(宇宙最大の爆発)、重力レンズによる暗黒物質探査、そして宇宙論に至るまで、様々な分野で伝説的な足跡を残した偉人であります。そのパチンスキー氏に私は何度か会ったことがあります。一度目は1987年ごろミュンヘンの研究所で。「私がボーダン・パチンスキーです」と、まだかけだし研究者の私に世紀の大学者がぴょこんと頭を下げられたのです。飾らない人なのです。「私が最初に得た職は、天文台のアシスタントオブザーバーだった」といった身の上話も伺いました。その後、プリンストン大学でもお会いしました。私がブラックホールの研究の話をすると、(昔、その分野で業績をあげていた)パチンスキー氏は、なんとも言えない、何十年も帰っていない故郷を懐かしむような表情で「今、私は、ノスタルジーを感じている」としみじみとおっしゃったことを昨日のことのように思い起こします。


 天文学をやっていてよかったと思うことがいくつかありますが、こうした海外の、天文学史に名前を残す、人格的にも素晴らしい方々にお会いできたことは私の宝の一つです。

(嶺重 慎)





2018年10月26日金曜日

モルワイデ図法、正距方位図法、そして RIP, CCD

 リーダの長田です。

 全天を平面に表すとき、天空での面積が正しく表され、しかもあんまりゆがんだように見えない、モルワイデ図法がよく使われるように思います。○○天体の分布だったり、宇宙背景放射の微少ゆらぎなどもそれで描かれていると思います。こういうように、人名を付けるのはその人へのリスペクトという意味で良いことだとは思いますが、これがガウスなどという人になると「そりゃあもちろん正規分布」「複素数平面」「光学の定義」「いやいや電磁気学」などと、さまざまな分野の業績のために、実に紛らわしいことになってしまいます。

 その点、「正距方位」と言えば、距離も正しいし方位も正しいのだなあと、スッキリとわかるという利点がありますね。「正距方位」という感じで表せば、日本を中心として口径3m以上の光赤外線望遠鏡がどっちの方角のどの距離にあるか、ということも良くわかります(写真参照)。


正距方位図法っぽく表した、口径3m以上の光赤外線望遠鏡の分布(赤丸)。
インドネシアの西チモールには星印をつけました!

 
 さて、「赤外線天文学」という講義で、観測装置に使う光や赤外線のセンサーについて調べたことがあります。Alan Hoffmanたちが2005年にExperimental Astronomyという学術誌に書いた論文の最後のページの締めくくりは次のような写真でした。「写真術(1830頃-1990)」、「撮像管(1955頃-1985頃)」とともに「皆に愛されたCCD(1980頃-????)」という墓標があって、RIPと書かれていました。ラテン語の Requiescant in pace か英語の Rest In Peace か、とにかく「安らかに眠りたまえ」ということですね。(彼らの論文の趣旨は、マイクロプロセッサの微小化が進み、その技術を使う CMOS イメージセンサが発達してきて、もはや CCD の時代ではなくなりつつある、とのことでした。その2000年代半ばから、今はさらに1桁もプロセッサ製作の線幅は微小になって来ています!)
CCD にしても、2次元撮像素子という意味だと思っている人が少なくなくて、そうじゃないよと言うことから「赤外線天文学」の講義はスタートします。撮像センサの世界では(あるいは、撮像センサの世界でも) MOS だの FPA だの SCA だの ROIC だのと、3文字やそこらの、意味がわかりにくい略号だらけです。

 さすがに4000年の歴史を持つ大帝国の作り出した表意文字、かつては遺物だとして「日本語はローマ字で表記しよう」という運動さえあったようですが、ただものではありません。








2018年10月18日木曜日

歴史の重み

 こんにちは。サイエンス・広報担当の野上です。

 今年4月にせいめい望遠鏡を擁する岡山天文台が発足しました。
正式名称は京都大学大学院理学研究科附属天文台岡山天文台です。
ずらずらと漢字が続いていますが、京都大学の中の、大学院理学研究科の附属施設である天文台の、その中の組織として岡山天文台がある、ということです。そして附属天文台というまとまりで見ると、京都府京都市にある花山天文台、岐阜県高山市にある飛騨天文台、理学研究科のある京大北部キャンパスにある天文台分室が既にあって、岡山天文台は一番新しい施設となります。一つの大学で現役で稼働している天文台を3つ持っているところは日本では京大だけで、多分世界的に見てもほとんどないと思われます。

 ちなみに東大は木曽観測所とアタカマ天文台の2つですね。広島大学は東広島天文台を持っていて、チベットの5100mの山の上にロボット望遠鏡を置くプロジェクトを進めています。東北大学はハワイに遠隔操作ができるハレアカラ60cm望遠鏡を持っていて、南極天文台プロジェクトがあります(主導されていた市川さんが昨年度で定年退職されて、今現在どうなっているのか私は知りません。)。北海道大学は光赤外線の1.6mピリカ望遠鏡と、11mの電波望遠鏡を持っていて、鹿児島大学は1mの光赤外線望遠鏡と6mの電波望遠鏡を持っています。他にも望遠鏡単位で見ると複数の望遠鏡を持っているところはあるかもしれませんし、大学の屋上に数十センチくらいの望遠鏡があるというところだと、かなり多いと思われます。

 京大の天文台に話を戻すと、今年飛騨天文台が設立50周年を迎えます。
11月16日にその記念式典が飛騨で行われます。現在、式典の準備が急ピッチで進められていて、その中の一つで50周年記念誌の作成があります。50年の沿革や歴代職員リスト、新聞記事・写真などの記録、研究成果報告、OB/OGや関係者からの寄稿、論文リストなどなどの内容となっており、なかなかのボリュームになりそうです。歴代の職員リストで、教員、技術職員、非常勤職員、研究員まで含むと、約100名となるようです。もちろん望遠鏡のユーザーとしてこられた方やメンテナンスで来られた方、そもそもの建設に関わられた方などまで含めると、ものすごい数になるでしょう。

 50年の間に、望遠鏡も増え(設置順に60cm反射望遠鏡(1968)、65cm屈折望遠鏡(1972)、ドームレス太陽望遠鏡(1979)、フレア監視望遠鏡(1992; 2010年にペルーに移設)、太陽地場活動望遠鏡(2003))、観測装置も発展してきました。
それにつれて観測手法や観測テーマも広がっていき、研究が深まっていることが、記念誌を見ることでよくわかります。歴史の重みがひしひしと感じられます。

 そして来年には花山天文台が設立90周年となります。ということは、岡山天文台が10周年を迎えた次の年に、花山天文台設立100周年という大きな節目を迎えることになります。これまでの附属天文台の長い歴史を受け継いで、そしてまた将来を見据えながら、岡山天文台を含めて新たに歴史となるものを積み重ねていく、、、こう考えていくと、現在の構成員の一人として、神妙な気持ちになります。精進しようと思います。

 翻って、私が所属している同じ理学研究科の宇宙物理学教室。こちらの歴史は1907年に物理学教室に新城新蔵教授が着任して新設された、物理学第四講座に始まります。そう、今年は111周年のゾロ目年。
これまで宇宙物理学教室ではこういう周年イベントが行われたことはないと思いますが、記念誌を作っておくとよさそう。でも実際にやるのは大変なので言い出さないでおきます。



岡山天文台の雄姿。スリットに見えるのはせいめい望遠鏡





2018年10月9日火曜日

日本のタイムカプセル

 子どものころ庭に埋めたタイムカプセルを2日後に開けたプロマネの栗田です。
 
 先日、大阪府門真市にあるパナソニックミュージアムに行ってきました。懐かしいパナソニックの家電などが展示されているのですが、もっとも目を引いたのは巨大なタイムカプセルでした。このタイムカプセルは大阪万博での松下館に展示され、松下電器のプロジェクトとして1971年1月20日に5000年後つまり6970年へ送るカプセルとして大阪城の地下に埋められました。ミュージアムでは試験の意味もあって4個作ったカプセルのうちの一つと収納品が展示されています。本物の2個は今も大阪城の地下にあるのですが、うち1つ(2号機)はミレニアムのたびに内部点検のために開封され、1号機は5000年後までダイレクトに送られます。
 2000年に2号機は一度大阪城から輸送され、点検作業を行ったのですが、カプセルにはプルトニウムの原子時計が備えられているため、プルトニウムの扱いが厳しい現在では大変な作業で陸上輸送されたそうです。

 ここで、5000年保存するということを想像してみると、とても夢が膨らみます。どうやって保存するのか、大阪城、それどころか日本語や日本は存続しているだろうか?。5000年後の人類への影響は?現代の技術があればカプセルは不要なのでは?いやいややっぱり価値があるよね?そもそも管理されているタイムカプセルはタイムカプセルとして良いのだろうか?などなど。

 なお、このタイムカプセルは埋設後、松下電器から文科省すなわち日本政府に譲渡され、その管理を国が行っています。つまり僕のタイムカプセルでもあるのです。





2018年9月26日水曜日

姫路城

   惑星観測装置担当の山本です。

 2018年9月19日から21日まで天文学会2018年秋季年会が兵庫県立大学で開催されていました。兵庫県立大学は姫路駅からバスを利用して30分弱というところで、期間中悪天候なことも影響して、毎日帰りの便が大混雑しておりました。

 私は歩くのが好きな質なので、会期3日間の内1.5往復分は姫路駅付近の宿から会場まで徒歩で通っておりました。先述の通り雨が降っている日もありましたが、道の起伏も激しくなく、朝晩の運動にはちょうど良い距離でした。初日は講演が早く終わったこともあり、姫路の町の散策がてら、姫路城を訪問しました。

姫路城

 姫路駅と姫路城を繋ぐ大きな通りである、大手前通りはなかなかの迫力で、姫路駅の改札を抜けるとすぐに目の前に姫路城が見えるような町の造りになっており、玄関口の駅がビル群になっている東京、大阪、名古屋はもとより、観光都市である京都も、駅を下りてすぐ見えるのは京都タワーであり、いわゆる「京都らしい」風景は「焦らされる」事が多いので、姫路のすがすがしさはなかなか良かったです。

 とはいえ、真っ直ぐ通っているのは城下町のとおりだけで、お城の曲輪はさすがにグルグルしていました。右に左にの曲がり角には砦や門が待ち構え、高低差のある壁面の上には狭間があり、守備側は広い斜角で攻撃できる一方、細長くのびた攻め落とす側は遠回り、分断されてひとたまりもありません。人の動きを想定した構造があり、それらの構造に新たな機能や用途を付加させてより全体の構造を強化させていく。お城、と言うか城郭全体において、細かいところのデザイン(意匠)まで、まさにその通り、デザイン(設計)されており、面白かったです。

 さて、観測装置や、望遠鏡などを作っている我々も、それぞれの目的を達成させるために、様々なデザインを行っています。すでにせいめい望遠鏡は外部からの見学は自由ですし、今後ツアーなども開催されていく予定です。数百年前の城郭に当時の人々の意志や思想を感じるように、望遠鏡や装置にも考えを巡らせて頂ければ、より楽しくなるのではないでしょうか。


 さて、以下(さらに)どうでも良いことですが、前回、ある本に載っている505の京都の神社お寺を巡っている、と言うお話をしました(http://sarif-report.blogspot.com/2018/06/505.html)が、3ヶ月の間にも進行しまして、482箇所まで訪問済みの社寺を伸ばすことが出来ました。95%近いです。

色付き丸印は訪問済み、白丸は未訪問。
左上は愛宕山、地図中央右の大赤円が二条城、
右上大赤円が京都大学、右下大赤円が京都駅、左大赤円が渡月橋。

 前回から乙訓や長岡京、大原野の辺りの寺社を訪問できました。京都にやってきて5年目にもなるのですが、山崎のサントリーに行ったきりでほとんど通過するだけだった、これらの土地ですが、京都市街とはまた印象が変わり、のどかな風景に古刹名刹が現れる、という感じで、非常に散策のしがいがありました。金蔵寺や、善峯寺-楊谷寺などは本当にバスなども届かない山の中で、大原よりも観光客も少なく、静かなところから、京都の市街を見晴らすことが出来、良い気分転換にもなりました。
 
 後は本格的に京都市街から離れた社寺ばかりで、ここから数を伸ばしていくのはなかなか大変そうですが、愛宕神社と水尾のあたりまではウロウロしたいな、と思っております。


 それでは!



2018年9月3日月曜日

Vチューバー

  光学など担当の岩室です。

 今回は V チューバーの話です。
U チューバーという人々の存在は既に世の中の隅々にまで認知されているかと思いますが、最近、V チューバーなるものの存在を知り、どういうものか調べてみました。
どうやら、自分の代わりにアニメの3Dキャラ(アバター)を使って動画を製作して流す人たちのことで、顔出しせずにいろいろできるのと、見た目の萌え度が簡単に上げられるのが人気の秘密のようです。もちろん、"V" はバーチャルの V ですね。登場した当初は、特殊技能を持つ一部の人にしか扱えませんでしたが、最近は、ソフトが発達して素人でも製作することが容易になっているようで、「V チューバー 作り方」などで検索すると色々情報が出てきます。
フリーソフトでも結構作れそうだったので、「雛乃木まや」でせいめい望遠鏡紹介動画を作ってみました。





このアバターはキーボードで動かせるので、特別な機材なしで簡単に扱えるのがいいのですが、表情14種類と動き10種類の組み合わせでしか動けないので、まあ、入門編と言ったレベルでしょう。一連の動きをタイミング良くキーを押して何度か練習しないといけないのですが、動きをコマンドファイルで読み込めれば希望の動きが失敗無くできるのにな、と感じました。現状では上記程度の短い動画であれば問題ありませんが、1分を超えるものの場合、かなりの訓練を積まないと成功しないでしょう。
ちなみに、上記の動画は文字などは gimp、全体の合成は aviutl100 という全てフリーソフトだけで製作してありますので、時間さえあれば誰でもこの程度のものは作れる世の中になったという訳です。

ところで、上記が入門編であるなら、中級編、上級編は何かというと、中級編はモーションキャプチャで体の動きや顔の表情を取り込んでアバターを動かすもので、最近のスマホのコマーシャルでも流れていたやつです。顔の動きだけであれば、2次元情報で何とかなるのでカメラ情報だけで大丈夫なのですが、体の動きは3次元の情報が必要になるので、かなり高い専用器具が必要になります。
上級編は、顔にもセンサを付けて表情と動きの両方を再現するもので、ここまでくるとかなりの投資が必要になるのではないかと思われますが、チューバーは最終的にはここに行きつくのではないかと思われます。名人級では、更に声優を雇って声を吹き替えさせますので、もっとお金がかかりますね(吹き替えせずにおっさん声でギャップを楽しんでいる V チューバーもいるようですが...)

チューバーの使うアバターは特注で製作されており、そこにも結構先行投資しているのではないかと思われます。また、アバターをタレントのように売り出す商売もあるようで、アニメ制作の技術とプログラミング能力があれば結構ネット上で商売ができるのでないかと推察されます。そのうち、人間だけでなく動物や宇宙人のアバターも出てくるでしょうし、3D 写真から簡単に 3D アバターも作れるようになったり、超人的な動きのできるアスリートの 3D モーションデータが入手できたりするようになると思いますので、ますます V チューバーは爆発的に増加すると思います。

ところで、私は今回調べて実際に作ってどんなものか大体理解したので、これだけで満足してしまいました。毎回の締め切りに追われて、アバターで動画を作るなんてのは想像するだけで疲れちゃいますね...



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ところで、いつもの演奏会宣伝です。
今回はびわこアーベントロート合唱団という大津の団体と合同演奏会を行います。長い曲ですが、興味ある方はどうぞ。

20181021()
@びわこホール
びわこアーベントロート合唱団
京都混声合唱団
合同演奏会

J.S.バッハ作曲
マタイ受難曲




チケットなどの情報は<京都混声合唱団ホームページをご覧下さい。

2018年8月24日金曜日

火星大接近天体観望会@京大吉田南グラウンド:私家版顛末記


627日のブログで野上君が宣伝していた観望会の様子を、私の経験した範囲内で紹介しようと思う。
731日―82日の3日間、19時頃から21時頃にかけて京大の吉田グラウンドで観望会が開催された。附属天文台主催で、宇宙物理学教室、NPO法人花山星空ネットワーク、花山天文台の将来を考える会、京都大学宇宙総合学研究ユニットの共催だが、京大天文同好会の協力もあった。(場所を貸してくださった京大野球部にも感謝。)皆さんのご協力で望遠鏡は毎日10台近く出て盛況であった。観望だけでなく、ミニ講演も1日に4回行い、火星や惑星の紹介もあった。
731日は火星大接近の日だったが、20時をまわらないと高度も低くグラウンドからみてもまだあまり高くない。しかし、この期間は、19時頃にはまだ金星が宵の明星として輝いており、望遠鏡で見ると半月のような形に見え、びっくりする人も。更にその東側にはこれまた明るく輝く木星が。縞模様を見て多くの人が感動。ガリレオ衛星の解説を聞いて、ふーん、と感心する人も。更にその東側にはやや暗いものの土星が輝いており、これも望遠鏡で輪が見えて、喜んでいる人が多かった。なかには土星の衛星を見つけた人もいた。土星だけでなく木星の人気が高かったのは意外(?)だった。そうこうするうちに、火星がよい高さになってくるので、いよいよ待望のご対面となるわけだが、火星では、少し前から砂嵐が発生していて、模様があまりよく見えない時期であった。しかし、砂嵐も火星名物であり、それはそれでよい思い出になったのではないかと(勝手に)思っている。このように火星に限らず多くの惑星を見ることができてよかったのではないかと思う。
観望会開催前には、一体何人位が参加するのか?ちょっとでは寂しいけど、いっぱいだと望遠鏡等が足りないだろうし、と心配していたが、結局、来られた方は、731日(火)(火星大接近の日)には600名(カウンターで勘定しているのでかなりの精度)、81日(水)は460名、82日(木)は270名とだんだん減ってきたが(最終日は天気が少し悪かった)、合計約1300名となかなかの盛況だったと言えよう。望遠鏡には、多い時には10人程度の列ができていた。(少ない時には待ち時間なし。)夏休み前半のためか、小学生等小さなお子さんが多く、親子で感動されている方が多かったように見受けられた。また、小さな子供たちは盛んに素朴な質問をして、その関心の高さにも圧倒された。
最後に一つとてもびっくりしたことを。昔(10年くらい前らしい)、岡山の国立天文台の公開日に京都から手伝いに行ったことがあるのだが、その時私の話を聞いたという小学生がナント私の顔を覚えていて声をかけてきた。そして、「その時の話を聞いて頑張って勉強して京大理学部に入りました、3回生になったら宇宙物理に進みたい」とのこと。私は記憶にないのだが(すいません)、こういったことがあると公開・観望会等の一層の励みになる。

太田 2018820



                        観望会の様子(西村昌能氏撮影)



2018年8月10日金曜日

天文教育と天文普及

 数ある学問の中から天文学を選んでよかったな、と今にしてつくづく思う理由の一つに、天文学は社会(一般市民)との距離が近い学問ということがあげられます。
 天文学と社会をつなぐ接点「天文教育・普及」活動に関する全国規模の研究会が、8月5-7日に慶應大学日吉キャンパスにて開かれました。主催は日本天文教育普及研究会(全国の天文研究者、小中高の先生、プラネタリウムや科学館など教育施設スタッフ、天文愛好者からなる団体)です。この研究会では毎回、思いもよらぬ、発想豊かな事例紹介が目白押しで、大きな刺激を受けています。今回も全部で160人超の方々が集まり、朝から深夜に至るまで熱い議論が繰り広げられました。初日にはJAXAの吉川真さんによる「はやぶさ2」の特別講演があり、また間瀬康文さんによる「はやぶさ実物大模型」の展示もありました(図1)。
 さて、今回の研究会、一つの大きな特徴がありました。初日限定ですが、すべての講演に手話通訳と、UDトーク(音声認識ソフト)を用いた言語情報の文字投影がついたことです。今回の研究会テーマは「みんなで楽しむ天文・宇宙」。宇宙や天文に興味をもち、もっと知りたい、もっと学びたいと思うことは障害のあるなしに関係ありません。しかしながら、音声情報を取り入れることが難しい聴覚障害者にとって、手話通訳などの情報保障がない会合には出席しづらいのです。そこで今回、本庄谷拓さんほか関係者の多大な協力を得まして、1日だけですが手話とUDトークを導入しました。
 今回、10人弱の視覚障害者・聴覚障害者の参加がありました。私は天文用語の手話表現をテーマに発表をしたのですが(内容はいずれまた)、参加の盲ろうの(視覚と聴覚に障害がある)方から今後の目標について質問がありました。「プラネタリウムや講演会等で、手話通訳や文字情報投影がごく当たり前になること」と答えました。

嶺重 慎


図1:はやぶさ実物大模型たけとよモデルⅡ
特定非営利活動法人ギガスター 間瀬康文氏提供

2018年7月13日金曜日

日本インドネシア 国交樹立60周年

リーダの長田です。
講義の準備をしているといろいろと新しいことに出会えて本当に驚きます。学生よりも教師の方が勉強になるものだということを痛感し続けています。今日も「赤外線天文学」の講義で調べものをしていたら、Turgot教授という方についてAlan Lightmanが書いた文章に遭遇しました。「ラジアティヴ プロセス」略して「ラジプロ」の略称で知られている「宇宙物理学における輻射過程」という教科書の名著の著者Lightmanです。その文章は彼のエッセーであり、いわく、

Turgot教授は熊みたいで40前後でハゲ始めていて猫背でいつもワイシャツのすそが出ていて、しかし、いわゆるうっかり者の教授ではなくてピントがピタリと合っていて、とは言え、学生に向かってではなくて黒板に向かって講義をして、だけど、だからこそ私は彼を指導教官に選んだのだ(Dance for Two (Pantheon Books, New York, 1996), p.163)。さらに興味深い記述が続きます(今やTurgoやらLightmanやら上記の書名やらで検索すれば少しは読めるという良い時代になったものです、興味のある方はぜひ)。

さて、最近遭遇したのはもう1つ、表題のように、In 2018, Japan and the Republic of Indonesia mark the 60th anniversary of the establishment of diplomatic relations.(これは外務省のウェブサイトから。日本インドネシア国交樹立60周年記念事業の募集なんてのもやっているのですが、今から何かに応募するのはむりでしょうねえ)でした。さらに、たどって行くと、

元AKB48で昨年12月にJKT48を卒業して、インドネシアでタレントとして活躍中の仲川遥香(25)が15日、「世界で最も影響力のあるツイッターアカウント」調査の女性の部で、昨年に続いて世界7位にランクインした。(これは日刊スポーツ[2017年11月15日20時0分]の記事のサイトから)というのもありました!

書くネタがなくて、実践ビジネス英語を聞いていたら、1つ取ってくれば盗作だけどたくさん引っ張ってくれば研究だ(そのNHK番組では1938のWilson Mizner の When you take stuff from one writer,it's plagiarism.  When you take it from many writers, it's research.をヘザーさんがおっしゃってました。どうやらたくさんのバージョンがあるようですが。)とあったので、そうだ!と、たくさん書き連ねてみました。どれも私には新鮮な内容でした!!


この日本インドネシア国交樹立60周年記念ロゴを使うにはいろいろ条件があるようで、ここでも、ここまで全部コピーすれば良いだろうと・・・。

2018年6月27日水曜日

火星大接近天体観望会@花山天文台&京大吉田南グラウンド

こんにちは。
広報・サイエンス担当の野上です。 

7月31日(火)は何の日かご存知でしょうか?
雑学ネタ帳・今日は何の日というHPによると、7月31日はパラグライダー記念日、蓄音機の日、クールジャパンの日、トゥインクルレースの日、菜の日となっています。それぞれに興味深いものがありますが、天文好きにとっては別のことが頭に浮かびますよね?

そう、7月31日(火)は火星大接近の日です!公転の関係で地球と火星はだいたい2年ちょっとおきくらいに近づきますが、それぞれの公転軌道が楕円形をしているため、一口に「近づいている」と言っても距離には大きな差があります。国立天文台のウェブサイトの中の「火星とは」というページをたどっていくと、2018年7月31日には火星と地球の距離が5,759万kmとなり、視直径は24.3秒角で-2.8等の明るさになるそうです。
この夜は金星、火星、木星、土星を一晩で見ることができるのですが、さすがに金星には負けるものの、木星よりも明るく見えることになります。
2012年3月6日にもその前後1年の間では最も火星と地球が近づいていることになっていますが、そのときは距離が10,078万kmと今年の2倍近く遠く、視直径が13.9秒角、明るさが-1.2等というので、ずいぶん差があることがわかります。

さて火星が2003年以来15年ぶりくらいの明るさになる今回、宮本正太郎・第3代台長が火星研究で大成果を挙げた花山天文台としては観望会を行わないわけにはいきません!7月31日(火)と8月3日(金)に火星大接近天体観望会を行ないます。宮本さんが実際に使った花山の45cm屈折望遠鏡で、あなたも火星を見てみませんか?45cm屈折望遠鏡以外でも、小型望遠鏡を出して木星や土星の観望も行ないます。
また、宮本さんが挙げた成果を中心に解説する講演も今の台長である柴田さんが行ないます。ご興味を持たれた方は、京都市観光協会のホームページからお申し込みください。
中学生以上4,800円、小学生3,800円の料金をいただきますが、その多くは花山天文台の運営費にあてられますので、どうかご協力をお願いします。

また、より多くの方と一緒に火星他の天体観望を楽しみましょうということで、7月31日(火)、8月1日(水)、8月2日(木)には京都大学吉田南グラウンドでも観望会を行ないます。こちらは参加費無料で事前申し込みも不要です。
友人知人ご家族をお誘いの上、どうぞお気軽にご参加ください。

写真はNASAで公開されている、ハッブル宇宙望遠鏡で観測した火星と、火星探査機マーズ・パスファインダーが撮影した火星表面です。
さて地上から見た火星はどのように見えるでしょうか?
花山天文台、あるいは吉田南グラウンドで確かめてみてください!

2018年6月8日金曜日

飛行機雲

 少年野球をやっていたころ、走塁練習で監督が打ったことに気づかず雲を眺めていたら思いっきりケツバンされたことを覚えているプロマネの栗田です。

 今でこそカメラ付き携帯があるので、面白い雲を見つけたときに写真に収めることができますが、かつてはそうはいきませんでしたよね。ちなみに一番のお気に入りは以下の写真です。南アフリカの観測所から撮影したカナトコ雲です。青空に沸き立つ雲が成層圏で水平に広がり、しばらくすると日没になり頂部だけが夕日で赤く染まりました(つまり赤くない部分は地球の影に入っています)。




 6月1日、せいめい望遠鏡のメンテナンスのために岡山天文台に行った時も面白い雲を見つけました。青空の一角に複数の飛行機雲が短く密集していました。とても印象的で、旅客機でこんなことが起こるだろうか、と不思議でした。同行していたミリタリーにも明るい木野氏に報告すると、もしかするとブルーインパルス(自衛隊の曲芸飛行隊)かもしれない、とのことでした。確かに6/3に山口県の防府でフェスがあるようで、ホームベースの松山から移動の際の一幕だったのかもしれません。




 飛行機雲の数は7本確認できます。ブルーインパルスの編隊は6機だけれども予備機が1機あるらしい。しかも移動中もしっかり編隊を組んで飛ぶらしい。偶然の重ね合わせや自然現象なら面白かったのだけど、きっとこれも相当珍しい(ドクターイエローよりずっと珍しい)だろうから得した気分になっておくことにしました。

 まぁ、こんなに短い飛行機雲を見ることも初めてです。飛行機が急激に高度を変えて冷たい空気の層を短距離で突っ切ったのか、まさかここで演技用のスモークを出したのか。。数分後には輪郭もぼやけてしまいました。



※飛行機雲ができる条件(水蒸気の過冷却または飽和状態)がギリギリの状態では出来てもすぐに消えるため、尾っぽの短い飛行機雲となります。これは時折見かけますが、空に取り残された短い飛行機雲は記憶にありません。同様に珍しい飛行機雲として、薄い雲を切り裂いたものもあります(雲を作ってないので飛行機雲と言えないかもしれませんが)。 



2018年6月1日金曜日

きょうとの505

 惑星観測装置担当の山本です。

 唐突ですが、PHP研究所より『[決定版] 京都の寺社505を歩く(https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=4-569-69247-8)』という新書が上下巻で出版されています。タイトルの通り、京都を12のエリアに分け、計505もの寺社の来歴、見所、所感などが紹介されています。「せっかく京都に住むのだから、一般的な観光名所くらいは廻っておきたい」と思い、京都へ赴任する際に購入した本のうちの1冊(1部)です。健康のために、と5年ほど前に自転車通学から徒歩通学に替えて以来、散歩・散策にハマっており、また、それ以前にもなんとなく頂いた御朱印帳が持ち腐れ状態でしたので、これらを生かし切れるような、なかなか都合の良い本だと思っておりました。

 ただ、505というのはなかなかな数字で、初めのうちは本当にただ「参拝した寺社のことが詳しく分かればいいや」くらいの心持ちで、まさか「すべて廻りきろう」等という事は考えておりませんでした。実際、京都へ来る前から知っていたような超有名な寺社を廻ってみたところで10,20の寺社であり、その数十倍の寺社があると思うと、とてもすべて訪問、は現実的な考えには思えませんでした。


白円で囲まれた丸印が「京都洛北・森と水の会」洛北30社(地図では26社)。
貴船・鞍馬、大原、上賀茂・下鴨神社、曼殊院などが対象。


 とはいえ、時間が経つと積み重なるものがあります。最初の切っ掛けは、修学院の辺りをフラフラしていた時に参拝した鷺森神社で受け取った、「京都洛北・森と水の会」の企画パンフレットでした。この企画は、会員の社寺でご朱印を受ける毎にパンフレットに印を頂き、10個溜まると特製コースターを1つ頂けるというもので、総数30の寺社が参加していました。最初の10個は下鴨神社、上賀茂神社、八大神社、曼殊院など、京都市街からもアクセスし(徒歩で行き)やすい寺社でしたので、すぐ達成できました。しかし山を越えた寺社も多くあるので「ここらからさらに20個は流石にキツいな」と思い、あまり進行しませんでした。しかし大原や鞍馬に行ってみると又一気に印が増えるので20個も達成してしまいます。ここまで来てしまうとなんとか残り10個を、と欲が出てきてしまい、岩倉辺りを休日毎にまわって結局、足かけ3年で達成することが出来ました。


「京都洛北・森と水の会」スタンプ台紙と記念品コースター。
廻りきるのが遅かったためコースター全種コンプリートは出来ず。


 この頃になると、『505』の上巻が紹介している寺社に、だいたい参拝していることに気付くようになります。上巻は東山から左京区、そして上京区あたりの、比較的アクセスし(徒歩で行き)やすい寺社が紹介されており、未訪問の寺社が数十程度になっていました。こうなってくると「せめて上巻の寺社を……」と思ってしまい、実際(左京区の北の端にある峰定寺を除いて)上巻をコンプリートすることが出来てしまいました。


『505』で紹介されている京都市街の寺社。
色付き円が訪問済み、白円が未訪問。地図中央右の大赤円が二条城、
右上大赤円が京都大学、右下大赤円が京都駅、左大赤円が渡月橋。


 こうなってくると……、後はおわかりですね? 

 寺社をぐるぐる廻るようになって、1つ自分に課したルールがありました。それは先ほどからチラチラと仄めかしているように、「徒歩で行く」と言うことです。最初のうちは単に健康のため、と言うのと交通費の節約というような意味しかなかったのですが、だんだんと別の意味を持つようになってきました。京都は古い都です。今のような交通手段がない時代から、いろいろな人がいろいろな思惑を持って、京都を行ったり来たりしていたことが、様々な旧跡を巡ることで分かってきました。あの場所から此の場所までどれくらいかかり、どれくらい疲れて、どういった景色が目に入るのか。今みえている現代の京都の街並みと、過去の都の町並みとでどう違っていて、どう同じなんだろうか。そういう感覚がとても楽しくおもうのです。

 とは言っても、毎回自宅から移動していては、移動だけで1日が終わってしまうので、以前歩いたところまでは交通機関で行ってもよいルールも追加しています。


伏見、宇治、乙訓などを含んだ地図。凡例は上に同じ。


 しかしながら、下巻は郊外の寺社が多く、また徒歩はおろか交通機関を利用してもなかなか到達が難しい寺社が多く控えています。愛宕神社のように1000m級の登山が必要なものや、大阪・奈良との境に近い、非常に遠い寺社などです。


『505』で紹介される寺社の全景。


 しかし、現在までに訪問達成率は85%ほどまできています。出来るところまで、やっていければと思います。

 さて、最後に自分の仕事などに引き付けたまとめなどさせて頂ければ、「可視化が大事」と言うことでしょうか。計画がどれくらい進捗しているのか、全体のどれくらいの位置にいるのか、不足を解消するためには何が必要なのか。こうした調査、検討は研究の世界でも重要な仕事の1つです。学問という大きな世界で言っても、何が分かっていて、何が分かっておらず、何が分かれば、世界の謎を解明することが出来るのか………。

 人へ説明・紹介するときだけでなく、自分で考えるときでも、可視化は大きな力を持っていることが多いです。現在開発している惑星撮像装置がきちんと「せいめい望遠鏡」に搭載され、目標が達成されるよう、きちんとまとめていきたいと思います。



それでは!

2018年5月16日水曜日

システムエンジニア的な話


 光学など担当の岩室です。

 今回はちょっと難しい話です。
世の中で良く「システムエンジニア」という職業名を聞くようになりましたが、これってコンピュータ関係の仕事だという事はわかるけど、実際、何をやっているのかよく分からないですよね。「プログラマ」はプログラムを開発する人ですが、「システムエンジニア」はプログラムを組み合わせて必要なシステム全体を作る人です。私は宇宙物理教室のシステムエンジニア的な仕事も行なっています。

皆さん、メールを送ったりブログやインスタをアップしたり色々ネット内での活動をされているかと思いますが、それぞれ、どんな仕組みになっているかご存知でしょうか。メールであれば、メールの送受信をしてくれる「メールサーバー」というのがどこかにあって、それに接続することでユーザーはメールのやり取りができます。ブログやインスタであれば、ネット上に情報を置いて公開してくれる「ウェブサーバー」というものがあって、そこに情報を送ることで掲載してくれます。どれも、大きなネット関係の会社が無料でサービスを提供して運用されていますが、昔はこれらは使いたい人が独自にサーバーを立ちあげて運用していました。宇宙物理学教室は非常に歴史が古く、1995年頃からそのようなサーバーを独自に立ちあげて運用していたようです。現在もその流れを受けて、小規模ながら各種サーバーを自前で立ちあげて運用しています。これは、非常に労力がかかりますが、ユーザーのやりたいことを自由に行なうことができ、また必要なときに自由に改変できますので、短期間だけ設定を変更するなど柔軟な運用が可能となります。

しかし、このサーバーっていうものはどうやって準備するのでしょう?

実は、サーバーを作るのに必要なソフトは全て無料で入手できます。宇宙物理教室では Debian という種類の linux (リナックスと読みます)を使っていますが、Windows のように単一の会社が扱う商品ではなく、linux は世界中のボランティアによって日々開発されているコンピュータを動かすベースとなるソフトウェア(OS と言います)です。Debian はそれをベースにこれまた多くのボランティアによって「パッケージ」と呼ばれる様々な機能を持ったソフトを部品として準備し、linux 上での多種多様なソフトウェアの集合体として開発されたもので、多くのパッケージの中から必要なものだけを組み合わせて目的にあった特殊なコンピュータを作り上げることができます。Windows でも、どんどんソフトを追加インストールして、使い方を増やせますよね。それが、もうちょっと細かく難しくなった感じです。こういう複雑なものは「スクラップ&ビルド」が必要なので、Debian は2年おきに新たなバージョンが公開されており、セキュリティ対策のため、サーバー PC も数年経つと新しいバージョンのもので作りなおす必要があります(古いものはアップデートされなくなるので、攻撃を受けやすくなります)

最近、宇宙物理教室の全サーバーの総とっかえ作業を行いました。まずは、できるだけ性能の高いコンピュータの部品を揃え、自前で組み立てる所から始まります。RAID と呼ばれる、ハードディスクを2台1組で使うボードを追加する事で、片方のディスクが壊れても問題なく復活できるようにします。部品単位で集めて組み立てるのは、こういう特殊な用途のものを完成品で購入すると非常に割高になるからです。量産品は安いですが、特殊なものは高いですよね。次に、この PC Debian linux をインストールします。その後、この PC に内部でソフト的な PC (仮想PC と言います) を動かすためのパッケージを入れます。その中で数台の仮想 PC を作り、それぞれに linux をインストールして(実際はある程度共通で使うパッケージまでインストールした仮想 PC をコピーして増やします)、そこにメールサーバーやウェブサーバーなどに必要なパッケージを入れることで、メールサーバーやウェブサーバーといった異なる機能を持つ仮想PC ができます(他にも、ユーザが外部から入る際のゲートとなる機能をもつサーバーや、ユーザのログイン名やパスワードの情報を管理するサーバーが必要になります)

 こうしてサーバーが出来上がります。見た目は1台の PC ですが中には数台の仮想 PC が入っていて、1台で数台分の役割をこなします。できるだけ性能のいい部品を揃えるのはそのためです。1台目ができたら、それで新しいサーバーの運用を開始し、これまで運用してきたサーバーの中身を新しい OS で同様に作り変えます(数年前の最先端 PC ですが、まだ何とか使えるので)。この作業は、1台目の中身をコピーするだけなので、大した作業ではありません。このような感じで、同じソフト構成にした PC を3台準備し(仮想 PC の台数では10台以上になります)、どれが壊れてもすぐに代わりの PC が使える体制で運用しています(下写真)最近は、昔に比べてセキュリティ対策がどんどん進化し、日々、より防御力の高いソフトが開発されています。そのため、パッケージを入れる際に昔の知識は通用しない部分が多々あり、その度に最近の情勢を勉強しないといけません。システムエンジニアはそういう意味で日々の努力が必要で、頭の固いオジサンには結構厳しい仕事です。




 ところで、岡山天文台をスタートさせるにあたり、そこでもサーバーが必要になります。最近、宇宙物理教室でサーバーを入れ替えたばかりなので、ついでに岡山天文台のサーバーもお古のサーバー PC を使って9割方完成させて昨日持って行ったのですが、何と輸送の途中で RAID を管理するボードが壊れたか、4台あるハードディスクの3台が同時に壊れたかと思われる事象が発生し、岡山天文台用に仮想 PC 4台を作りこんだ私の一週間は水の泡と消えつつあります(まだ復活の希望は少しありますが)。これまで数年間、宇宙物理教室のサーバーとして動かしてきたお古のサーバーなので、長距離の移動は酷だったのでしょうか。こういうサーバークラスの PC を輸送するときは、ハードディスクのヘッドの振れる方向まで意識して載せ、特に縦Gには注意して輸送しないといけないという事、また輸送後は PC の中身を開けてコネクタやボードのささり具合の目視点検が必要であることを学習しました...

(この PC はこの記事を書いた後に無事自己修復できて最重要部分は復活し、一安心でした)


2018年5月1日火曜日

3.8m望遠鏡の愛称は「せいめい」に決定しました!


 こんにちは。広報・サイエンス担当の野上です。

 決まりました!そう、我々の新しい望遠鏡の愛称です。「せいめい」望遠鏡です!今後はせいめい望遠鏡と呼んでかわいがってあげてください。

 昨年10月下旬から12月20日まで愛称募集を行ないましたが、日本全国から1036通+海外から2通の応募がありました。
年齢層も幅広く、幼稚園の年中さんから80代まで応募がありました。
我々の想像を大幅に上回る応募で、関係者一同感謝感激です。
応募していただいた皆様、どうもありがとうございました!

 この中から選ばれたのが「せいめい」です。平安時代の陰陽師、あるいは天文博士として有名な安倍晴明(あべのせいめい)にちなむものなのですが、この方、日本全国で観測を行なったとされています。3.8m望遠鏡の近くに安部山というのがあり、そこでも庵を構えて天体観測を行なっていたそうです。
ということで、京都にも岡山にもゆかりのある天体観測の大先達のお名前をいただきました。また、この望遠鏡で行なうサイエンスの3つの柱、突発天体・現象の即時観測、系外惑星探査、恒星スーパーフレアの中で、系外惑星探査は宇宙における生命の探求に繋がります。
太陽でのスーパーフレアも、地球での生命の発生や進化に大きな影響を及ぼした可能性があります。まさにせいめい望遠鏡にぴったりの研究テーマと言えるでしょう。

 ちなみに下の画像は、3.8m望遠鏡と同じ敷地にある岡山天文博物館のマスコットキャラクターです。その名も「せいめいくん」!
同じく安倍晴明にちなむものですが、あくまでも偶然の一致です。
これホントです。選考委員会には浅口市長など関係者にも入ってもらっていたのですが、選考委員会では一切そういう話は出ませんでした。決定してからそういう話を聞かされてびっくり、という顛末でした。折りしも大フィーバーを起こした羽生結弦さんのフリープログラムの音楽もSEIMEIでした。これも偶然の一致です!ホントです!

 ということで、これからもせいめい望遠鏡、せいめいくん、羽生結弦さんを応援してください!





2018年4月20日金曜日

キュー観測


 キュー観測って何?急観測や旧観測の書き間違い?そうではない。まさか9観測?それはさすがに、、、じゃあ、やけでQ観測とか?おしい。正解はQueue観測。Queueを英和辞典で見ると弁髪とも書いてあるけど、順番待ちの列のことである。で、何の順番待ちの列かというと、ここでは観測プログラム(観測課題)の列のことである。クラシカルな天体観測では、割り付けられた夜に観測者が自身で観測を実行するが、キュー観測はそのようなスタイルをとらない。あらかじめ採択された観測申し込み(プログラムor観測課題)に重要度に応じて優先順位をつけ、また観測条件に応じて順番を決めて、このスケジュールされた「列」に従って、当番の観測者がその夜の観測を次々と進めていく方式のことである。「プロの天文学者は、晴れていれば夜な夜な観測していると思われているらしい。しかし、実際にはそうでもない」シリーズの観測形態のひとつである。観測条件も考慮して順序を決めていくわけだが、観測対象天体の座標(位置)や月の位相(満月とか新月)は予めわかっているので、かなり前から順番の列を作って準備しておくことが可能である。一方、気象条件は直前にならないとわからないので、前日や当日の昼に予想して順序を決めておいて、夜になったらこれに従い順次観測を実行していくことになる。観測途中で急に薄雲が出てきたとかシーングが悪くなってきたという状況になったら、優先順位は低くても、薄雲でも悪いシーングでも観測可能な申し込みを急遽取りあげて観測を実行するといった具合である。優先度の高い観測課題を特定の夜に割り当てて、でも残念ながら気象条件が悪かったのでまともに観測できませんでした、また来年どうぞ、というような事態を避けるのに好都合であるため、最近の大型望遠鏡で採択されつつ方式である。すばると同じく8m級の望遠鏡であるGEMINI望遠鏡では既にかなりの時間はキュー観測で実施されている。すばる望遠鏡でも、可視撮像観測で導入されつつある。
 
 優先度が高いと評価された観測研究の達成率が上がるため、望遠鏡の効率的運用としては利点がある。但し、キューの効率的な組み方、望遠鏡や観測装置のオペーレーションを行なう人員の確保などといった面には注意が必要である。また、他人が観測を実施するので、どの程度の質のデータが取得できればよいのかという判断基準をかなり詳細に示しておかないといけない。また、例えば院生などが観測の現場を肌で勉強していくといった訓練ができない点にも要注意であろう。
 
 さて、20183月に、3.8m望遠鏡の共同利用の具体的な運用方針が、岡山プログラム小委員会から提出されてきた。それによると、キュー観測が望ましい形態とされている。(クラシカルモードも許容しているが、主なモードはキューとされている。)その理由は上記のような面もあるが、どちらかというと、3.8m望遠鏡ではToO(target of opportunity)観測を重視していることが挙げられる。ToO観測は超新星のように突発的に出現する天体の観測を行うものであるから、何月何日に実施できるかわからない。いつ出現するかわからない天体の観測のために望遠鏡サイトにずっと張り付いて滞在するわけにはいかない。キュー観測実施中であれば、ToO観測を行いますという電話やメール連絡があれば、優先順位を考慮してキューに割り込んでToO観測を実施することができるので、大変効率的である。と、いうわけでキュー観測が主な観測モードになりそうである。しかし、上記の様に院生が観測経験を実地で積むことも教育上必須であり、また観測実行できる人を育成する必要だってある。そこで、京大時間にはなるべく院生が観測を行なうような体制にしておくのがよいだろうと考えられる。
 
 ところで、自動観測でない限り、キュー観測体制下では、担当者は夜な夜な観測を行うことになる。その人達はプロの天文学者であるので、「一部のプロの天文学者は、がむしゃらに夜な夜な人の観測をする」ということになる。将来は、自動キュー観測が目指されている。


太田 201844日 




              GEMINI(北)の雄姿(?)


2018年4月6日金曜日

桜満開~日本の春


 桜が早くも満開になりました。毎年のこととはいえ、その美しさに目を奪われます。
 で、こんなことを考えました。桜の美しさとは何か? それは「統制された乱雑さ」ではなかろうかと。
 話はとびますが、2017年9月に京都大学バリアフリーシンポジウム2017が開かれまして、私も企画に携わりました。テーマは「『障害』で学びを拡げる」。「健常者」という(じつは)限られた世界でしか通用しない「普遍性」をベースになりたってきた学問を、「障害」という観点から見直し、新たな展開を目指そうという趣旨の会合です。従来の「普遍性」から多様性を包含した「真の普遍性へ」。今、障害当事者が発信する新しいスタイルの学問が形になりつつあります。
 宇宙物理学者の池内了さんはこんなことを書いています。「人々の自然観の基礎的概念を打ち立てるべき物理学の目標が、統一的原理の探究から、多様性発現の論理の追究へと移りつつあることに留意すべきだろう。・・・初心に戻って差異をそのまま受け取り、記述し、その根源を探る方向へと転回する時代にさしかかっている」(池内了『転回の時代に~科学のいまを考える』岩波書店)。確かに科学は発展してきた、しかしそれは原理に合わないものを排除した発展ではなかったか、という鋭い指摘であります。単純な原理で表せないもの、それは例えばカオスやフラクタルなど複雑系とよばれる現象であり、また科学と社会との関係でしょう。
 桜に話を戻します。もし桜が、この桜もあの桜も、みな同じ四角形とか三角形に花咲いていたとしたら、おそらく興ざめでしょう(「いや、それがいい」とおっしゃる方もおられるかもしれませんが)。桜の木々は、それぞれに枝を伸ばし、それぞれに花を咲かせています。同じモノはありません。まさに「統制された乱雑さ」。
 「雑」というと、今では「その他もろもろ」とあまりいい意味では使いません。しかし万葉集は「雑」の分類から始まります。年始にいただく「雑煮」と同じく「華やかな開始」という意味があるそうです(鷲田清一『折々のことば』朝日新聞2018年1月3日)。そういえば、星空だってじつに雑な(華やかな)世界ではないですか!
(嶺重 慎)


通勤途中で見つけた桜の花(2018330日撮影)




2018年3月7日水曜日

近未来の話 -3.8m望遠鏡の愛称とプラネタリウム番組-


こんにちは。広報・サイエンス担当の野上です。

前回の私の記事は20171027日のもので、そこでは3.8m望遠鏡の愛称募集のことを書きました。1027日に募集開始で1220日までの約2ヶ月間で、日本全国から幅広い年齢層で1000件を超える応募を頂きました。我々の想像をはるかに超える反響でした。応募していただいた皆様、本当にどうもありがとうございました!

愛称案と合わせて愛称の由来も書いていただきましたが、「なんとなく」というものから小論文か?と見紛うようなものまで様々で、中には感動を覚えたり勉強になったりするものもありました。皆様の期待をひしひしと感じ、我々もきっちりと望遠鏡や観測装置を作り上げ、後世に残るような科学的な成果を挙げていかなければと思いを新たにしております。

さて、この愛称の選考委員会が先日開催されました。いろいろな観点から非常に活発な議論の末、決定に至りました。結果や詳細についてはいずれ正式な発表がありますので、それまで楽しみにお待ち下さい。今回選ばれなかったものの中でも、「これもいいなあ」というものも多数あり、今後の3.8m望遠鏡関連の何かで使われる可能性があります。意外なところで「あ、これ3.8m望遠鏡の愛称で考えたやつや!」という発見があるかもしれませんので、ご自分の応募された案を覚えておかれるとまた楽しみがあるかもしれません。

さて、それとは別に、コニカミノルタプラネタリウムさんが、3.8m望遠鏡を取り上げたプラネタリウム番組を作ってくれることになりました。このメンバーズブログ執筆陣の長田さんと栗田さん、そして私が出演します。実は既にプレビュー版は見せていただいたのですが、印象は「編集ってすごい!」()。どこでいつ上映されるかは今後決まっていくことですが、楽しい番組になっていると思いますので、もしお近くで上映されるということになりましたら是非ご覧下さい。


大宇陀観測所の外観と
大宇陀観測所から岡山天文台に送られた
本棚とソファー