2013年12月19日木曜日

最近のCMOSカメラ


  光学など担当の岩室です。
 
 京都大学理学部では、高校生向けにELCASという全12回の科学体験講座を開いています。私は12/21に担当予定なのですが、この講座に参加しているある高校生から「高校にある望遠鏡で眼視観測をしているが、もっと良く見えるようになりませんか」と相談を受けました。その時は、「一眼レフCCDカメラか、CMOSカメラを取り付けてみては」とアドバイスしましたが、高校生のクラブ活動程度でも使えるものがあるのかが気になって調べてみました。通常、非常に暗い天体撮影を行う場合には高効率・低ノイズの特殊なCCDカメラが必要ですが、高校生のクラブ活動ではとても購入できる価格のものではないからです。少し調べてみたところ、ASI120MC というカラーのCMOSカメラが安価で良さそうだとわかったので、ELCAS の私の担当回の最後にこれで観望会をしてみようかと思い、ELCAS の予算で購入してもらって、余っていた古いカメラレンズと組み合わせてみました。
これで試しにオリオン星雲を撮ってみたものが以下の画像です。



 

レンズは口径約60mmf/1.8で、三脚固定ではオリオンなどの天の赤道上の天体は検出器上を1秒間に2画素ずつ移動していくことになりますので、少し流れるのを我慢しても露出時間は2秒しか取れませんでしたが、思ったより綺麗に星雲が写りました。今の世の中、検出器も相当進歩したので、この程度の画像は結構簡単に撮れるものなんだなと感心しました。

 3.8m望遠鏡で眼視で見たらもっと明るく見えるように思われるかもしれませんが、実は、星雲のように広がって光っている天体の面の明るさは、望遠鏡を大きくしても変わらないので(大きい口径で光を沢山集める一方で、大きい望遠鏡だと像が拡大されて薄められるため)、実は眼視では大きい望遠鏡でも星雲などの光を明るく見ることはできないのです。3.8m望遠鏡での観望会では、眼視の他に、このような簡単なカラーCMOSカメラを付けて、眼視では見づらい星雲のリアルタイム画像を見てもらうのも楽しいのではないかと思います。

2013年12月13日金曜日

感動した!


  感動した!(K泉J一郎風に)
何に??
  11月半ばに、京大基礎物理学研究所で、ガンマ線バーストの国際研究会がありました。1年前の丁度今頃、金沢でガンマ線バーストの国内研究会があって、このブログに以下のように書きました。

「ショートガンマ線バーストの残光の可視スペクトルがまだないこともあり、何がどう見えるのかよくわからないのですが、研究会では、理論モデルから、予想される可視域で光るメカニズム、可視の光度、スペクトル等の情報を得ることができて大変有用でした。」

  しかし、この時にはまだエネルギー収支から予想される光度や類推によるスペクトルの予想程度だったのですが、ナント今回は、爆発で形成される元素を考慮しそれによる吸収量まで評価に入れた詳細な計算をしていて、現実的な具体的光度進化やスペクトル進化の理論計算結果が発表されていました。見てきたようなスペクトルを見せてもらいました。いやー、科学の進歩は日進月歩というけど、1年でここまで来るとは本当にすごいなーとしみじみ感じ入ったという次第です。
 ただ、残念ながら新しい理論モデルによると、これまで想定されていたより暗くて、観測が難しくなる傾向にあって、厳しい状況になってきました。しかし、理論だってまだ完璧とは限らないし、そもそも比較的近くで発生する現象なら(頻度は下がるものの)検出可能であるかもしれないので、これに失望する必要は全くなく、観測屋としてはただ前進あるのみです。 

                                                                    太田耕司
 
 
 
 
 
会場になった基礎物理学研究所。湯川博士がノーベル賞を
受賞されたことを記念してできた建物(研究所)で、湯川
記念館ともいいます。よく見ると中央左寄に湯川博士の胸
                      像が見えます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

2013年12月6日金曜日

二百分の一の授賞


 先日、毎日出版文化賞の授賞式に行ってきました。

-えっ、何か著書が受賞されたのですか?

 答えは、YES/NO、そうともいえますし、そうでもないともいえます。

-えええっ、どういう意味ですか?

 今回、自然科学部門に、岩波科学ライブラリーというシリーズが受賞しました。私は恥ずかしながらその中の一冊を執筆しました。20年間で200冊出ていますので、単純に割り算すると、1/200だけ受賞したことになります。通常、こうした賞は、一冊の本(あるいはシリーズの本)が対象ですから、今回の受賞は、破格の扱いということになります。しかし、1/200でも嬉しいです。

-受賞式はいかがでしたか。

 いろいろ楽しい思いをしました。何よりも、受賞者のスピーチです。一流といわれる人はかくあるべきか、ということがよくわかりました。みなさんの、執筆にかける共通した思いは、「渾身」というひとことで表されるでしょうか。うんうんうめくような思いで、極限までに自分を研ぎ澄ませ、魂を絞りつくすようにして作品を生み出し・・・、それでいて、人を思いやる温かさに満ちあふれておられるのです。とても感動いたしました。まさに、芳醇な赤ワインをいただいた後に残るような余韻が、スピーチ後も会場に漂っていたのを実感し、まことに稀有な体験でした。

-ところで、著書の内容は?

 私が書いたのは、「ブラックホールを見る!」という2008年に出した本です。ブラックホールの常識は、「何でも吸い込む怖い穴」ですが、このブラックホール観が、今世紀に入って、がらりと変革をとげつつあります。すなわち、宇宙最大のエネルギー源としての働きが、にわかにクローズアップされてきたのです。3.8m望遠鏡計画も、まさにそのようなブラックホールの働きの一端をとらえるべく建設されています。早く完成させて、皆さまがたに、ブラックホール活動の観測について、ご報告したいものです。

 

(嶺重 慎)