2015年11月27日金曜日

系外惑星の紅葉を見よう

 観測装置担当の山本です。

 2015年11月下旬です。紅葉真っ盛り、ですね。あくまで暦の上では、ですが。京都に移ってまだ2年目なので、休日には新鮮な思いで京都の秋を満喫しています。
しかし今年は紅葉狩りに出かけても「一面の赤黄色」と言う事は無く、十分色づいた樹もあれば、まだまだ青々とした樹もあり、かと思えば既に葉がすべて散ってしまっている樹もあり、まばらな、ばらばらな紅葉風景です。



東福寺


 今年は比較的暖冬で、昼夜の寒暖の差があまりないのが原因らしく、確かに昨年は底冷えするような夜が多かった記憶がありますが、今年はまだコタツも出さず、朝布団から抜け出るのも比較的容易な気がしています。

 ところで、ここまで紅葉、紅葉と書いてきましたが、皆さんはどう読まれたでしょうか?
私は「秋になって葉の色が変わること」を、こうよう、そうした樹木の内特定のものを、もみじ、と呼ぶのだと思っていました。しかし、葉の色が変わる、と言う現象そのものを「もみつ」と呼び、時代が下って「もみぢ」と変化してきたようですね。「もみぢ」を見せる典型的なカエデを特に「もみぢ」と呼ぶのも全く間違いというわけではないですが、あくまで狭義の意味だったようです。また「こうよう」も「紅葉」だけでなく「黄葉」と書いたりもするようで、上手いものだなぁ、と思いました。

 さて、なぜ紅葉は紅葉するのでしょう? もともと、植物の葉が緑色なのは光合成を行う葉緑素(クロロフィル)が緑色を強く反射しているからです。日照時間が短くなり光合成が十分行えないようになってくると、葉緑素を分解して吸収・回収するそうです。そうして緑色の反射がなくなるのですが、実は植物にとっては赤い光(波長0.75um-1.1um)も不要で、葉緑素は(赤外線に近い)赤い光も反射しています。それを補助する他の色素(アントシアン(赤)やカロテノイド(黄))もあり、これらの色素は葉緑素が分解されたあとも残るため、赤や黄色に色づくわけです。

 天文と関係の無い時節の挨拶のような話に思われたかも知れませんが、実は天文学の最先端、太陽系外惑星、そして地球外生命探査に関わる話題なのです。
植物というと緑色をイメージすると思いますが、上で紹介したように実は、植物は赤い色も一年中反射している、つまり赤く光っているのです。
我々が開発している系外惑星撮像装置ではまだ難しいですが、将来的には太陽系外惑星の表面がどのような色をしているかが観測出来るようになります。そのとき、惑星表面の大まかな情報は見分けることが出来るようになります。つまりそこが海であるのか、土・沙漠のような地形なのかが、色から分かります。他の波長に比べて強く赤く光っている惑星があったら、そこには地球の植物とよく似た生物が居る、と判断しても良いかも知れません。

 次の紅葉シーズンは半年か、およそ一年経てばやってきます。出来るだけはやく、地球以外の惑星の紅葉を発見出来るよう、頑張って開発を進めていきます!




2015年11月12日木曜日

すばるTAC

  プロの天文学者は、晴れていれば夜な夜な観測していると思われているらしい。だが、一般にはそうではない。以前にも書いたが、国立天文台の岡山天体物理学観測所188cm望遠鏡やハワイのすばる望遠鏡といった共同利用望遠鏡で観測する場合には、まず観測申請をする必要がある。審査を経て採択されたものだけに望遠鏡時間が割り当てられる。倍率は望遠鏡によるが、典型的には2-5倍程度であろうか。そして割り当てられる夜数は、半年で数夜とかそんな感じである。なかなか厳しいのである。
 さて、今回はその内幕を暴こう。久しぶりにすばるTACメンバーを拝命した。正式名称は「すばる望遠鏡プログラム小委員会」であるが、観測時間を割付けるので、Time Allocation Committeeとも呼ばれ、通称「すばるTAC」というわけである。ここで審査が行われ採否が決まる。
 研究者が申請する研究提案をプロポーザルという。プロポーザルには大概以下のようなことが書かれる。①提案する研究課題を明示し、その問題がいかに重要なのかを説明する。②この問題を解くにはこういった観測量が必要で、それがわかるとこう解決する。③そのような観測は実際に実行可能である。と、いった具合である。
 この9月に締切のあったすばるのプロポーザル数は200弱であった。これを分野別に約10のカテゴリに分ける(基本は申請者の自己申告にもとづく)。各カテゴリに5人のレフェリーをつけて査読してもらう(レフェリーには外国人も含まれる。TACメンバーはレフェリーにはならない)。そして、いくつかの観点からスコアをつけてもらうと共に評価ポイントも書いてもらう。むろん、プロポーザルの提出者や共同研究者は自身のプロポーザルの審査はしない。
 TACではレフェリーのスコアを集計して、最終的な採否の判断を行なう。レフェリーからのスコアの平均で概ねの採否は決まるのであるが、TAC委員としては、自分なりの評価を行い、レフェリーが何か勘違いして不当に高い(低い)スコアをつけていないかといった点もチェックし、必要なら高スコアでも採択をせず逆に低スコアでも採択することもある。また、ボーダー付近のプロポーザルは特に注意を払って採否を決めていく。更に、観測所の装置担当者が、本当に観測可能なのかどうか技術的な審査をした結果も勘案しなければならない。どんなにすばらしい研究課題であっても、観測不可能であっては実施できないからである。
 しかし、これだけではまだ足りない。よいプロポーザルをどんどん採択していくと、現実には観測割り当てができなくなることが起こる。例えば2-3月でないと観測できない天体がターゲットでしかも暗夜(月のない夜)でないと困る、というようなプロポーザルがたくさん採択されると、割り付け夜数がパンクして破綻してしまう。このような場合は比較的高スコアでも採択には至らないことがある。逆にすいた時期だとスコアが少し位低くても採択されることもある。その他、現在のすばる望遠鏡ではこの手の外的条件が増えていて、今回10年ぶり位でTACの仕事をしたが、極めて複雑で大変な割付作業になっていた。採択会議はみっちり2日間三鷹で行なわれ、2日目の夕刻にはくたくたになって帰路についたのであった。
注:実際のTACの仕事はもっとあるが紙幅の関係で省略した。また、上記のような採択方式はどこの天文台でも同じかというとそうでもなく、いくつかの方法がある。すばるTAC自身でも時代によって少し違う場合もある。

                         2015117日 太田耕司