2012年12月28日金曜日

研究発表

第二回可視赤外線観測装置技術ワークショップ

だれも見たことのない星や銀河の姿を知りたいと思ったら、だれも作ったことのない望遠鏡やカメラを作り、それで天体観測をしなくてはいけません。もちろんだれも作ったことのないものなので、ひとに頼むことはできません。自分達で作るしかありません。天文学者たちはそうやって日々独自の装置を開発することに一生懸命です。今回僕が参加してきたワークショップ(勉強会)はそういった天文学者たちが日ごろの装置開発の成果と課題を発表し合う場でした。とくに私たちの望遠鏡計画は新技術と銘打っているだけあって、自他ともに意識は高まります。でも他の研究者たちも信じられないような高い精度を目指して頑張っていることを知り、とても刺激的です。例えば、重力波を捕えようという望遠鏡(KAGRA)では1㎞の長さの1オングストローム(原子の大きさほど)を識別しようとしています。天体の位置を正確に知ろうという望遠鏡(JASMIN)では10㎞さきの髪の毛ほどの太さのものを見分けようとしています。僕たちもガンマ線バースト、スーパーフレアや系外惑星の検出を目指して頑張ります。それではみなさんよいお年をお迎えください!

2012年12月14日金曜日

2012年12月14日

光学など担当の岩室です。

最近は、鏡と鏡が光の波長レベルできちんと位置が揃っているかを調べる「位相カメラ」というものの試験をしています。これは、分割鏡方式でつくる望遠鏡には必ず必要なもので、通常は星の光を用いて鏡の位置関係をチェックするのですが、レーザー光源を用いて行おうというものです。

これには3種類のレーザーが必要で、一列に近接して並べられた3種類の光ファイバー(それぞれのレーザー波長に適合した光ファイバーを用います)からこれらの光を照射する必要があるのですが、通常市販されている光ファイバーケーブルは端にコネクタが付いているので近接して並べることができません。もったいない気もするのですが、片方のコネクタの付け根でファイバーを切断して皮膜を剥ぎ取り、内部の素線を直接研磨して断面を綺麗にする必要があります。こういう作業を外注すると、研磨するために一旦樹脂で先端を固めてから研磨し再度樹脂を外すといった手の込んだ作業となって結構費用がかかるので、自前でやってみることにしました。

端面の研磨は、専用の研磨シート(非常に目の細かい紙ヤスリ)を回転台の上に貼り付けて、回転させながらファイバーの先端が暴れないようにアルミテープで挟むなどして軽く触れる程度に当てればいいのですが、回転台として古いパソコンに入っているハードディスクが使えるかと思い、分解してみました。ハードディスクは非常に安定した軸で高速回転できるように設計されているので、回転ステージとしては最上級の精度を持っています。分解してネットで調べるなどしてわかったのは、モーターは3相のブラシレスで結構回すのが大変ということでした。多分、1相だけに交流をかけて手で勢いをつけてやれば回るのでそれでもいいのですが、回転速度の調整もできるようにちゃんとした3相ブラシレスモーターの汎用ドライバ(モーターの駆動回路)を手配中です。昔のモーターは、整流子というもので電流を切り替えていたのですが、最近のモーターは回路で整流子に相当する作業をやってしまうので、こういう所にも時代の流れを感じますね。

本題のファイバー端面の研磨は、結局手でできちゃいましたので、何のための研磨台か良く分からない状況になりつつありますが、コンピュータは格安にも関わらず、精密機械の集合体なんだなということを実感した日でした。こんな感じで、色々脱線しながら開発を進めています。

2012年12月1日土曜日

2012年11月30日

ボードの太田です。
11月28-30日、金沢で「ガンマ線バースト研究会」が開催され、参加してきました。
ガンマ線バースト(GRB)というのは、空の一点で突然数秒間程ガンマ線で明るい天体が出現し、その後しばらくの間X線や可視で残光が見られることが多いのですが、これも急速に暗くなってしまうという現象です。そのエネルギー規模は極めて大きく、宇宙最大の爆発現象であることがわかってきています。しかし、まだ謎だらけの天体現象です。そういうわけで、例年、ガンマ線天文学者、X線天文学者、可視光天文学者、電波天文学者、理論天文学者、あるいは研究対象としては、X線星、超新星、銀河、宇宙論、高エネルギー等の非常に広い分野の研究者が一堂に会して、研究発表や議論を行う会となっています。今年は、新たに重力波天文学の研究者も参加しました。日本の本格的重力波望遠鏡KAGRAの建設が今年から始まり、2017年頃の稼働を目指しているのですが、ガンマ線バーストが重力波天体の有力候補になっているからです。KAGRA完成後には年間1-10個程の重力波天体が検出されると期待されています。むろんこれまで重力波の直接検出例はなく、ついに重力波天文学の幕開けと期待されています。重力波天体の有力候補の一つがガンマ線バーストの中でもショートガンマ線バーストと呼ばれるもので、中性子星の連星が合体したものだろうと考えられています。
私は、専門は銀河なのですが、故あって重力波天体の電磁波対応天体を検出してその性質を探るという、プロジェクトに参加しています。重力波望遠鏡では、重力波天体の位置があまり正確にわからない上、その距離を出すことも困難、そもそも検出される信号も非常に弱いと予想されるので、電磁波やニュートリノで対応天体を検出することによってその検出を確実にすると共にその性質に迫る必要があります。このようなアプローチは近年「マルチメッセンジャー天文学」と言われていますが、多くの研究者の共同のもとで重力波天文学を開拓しようというものです。
私の役割は、岡山の188cm望遠鏡、将来的には3.8m望遠鏡を用いて、ガンマ線バースト(特にショートガンマ線バースト)の即時可視面分光観測を行い、残光のスペクトルから天体の物理状態や距離を出そうというものです。現在そのための観測装置の概念設計を行っており、来年度再来年度に製作をして重力波望遠鏡の稼働に間に合わせようという計画です。ショートガンマ線バーストの残光の可視スペクトルがまだないこともあり、何がどう見えるのかよくわからないのですが、研究会では、理論モデルから、予想される可視域で光るメカニズム、可視の光度、スペクトル等の情報を得ることができて大変有用でした。また、重力波望遠鏡が空に対してどんな感度をもつのかというのも初めて知りました。将来、3.8m望遠鏡で重力波天文学幕開けの一翼を担うことができればと思います。
写真は、研究会の様子。高エネルギー加速器研究機構の井岡氏がGRBと重力波の関係についてレビューをするところです。

2012年11月19日月曜日

バリアフリー天文絵本(嶺重 慎)


望遠鏡プロジェクト・ボードの嶺重です。

 専門は「ブラックホール天文学」の理論ですが、今日は肩のこらない話題を。

 ここ数年、バリアフリー天文教材プロジェクトというのを進めています。これは、視覚障害者も含め誰もが使える天文学習教材を開発するもので、今年、念願の「絵本」を完成しました。(正直、この年になって、絵本を手がけるとは思ってもみませんでした。)

 しかし、絵本は難しい。担当編集者の「知識のおしうりをするな、感動をおしつけるな、こどもをわくわくさせられたら合格」との厳しい指導のもと、何度も何度も書き直したのが3年前のこと。それから、紆余曲折あって、ついに「ホシオくん 天文台へゆく」の全セットが完成しました。茨城県・水海道一高教諭の髙橋淳さん、()ロボット所属のアニメーション作家の坂井治さんとの共著で、活字版(墨字版ともいう)、点字・点図版、音声版(CD)からなります。それぞれに工夫が凝らされています。

 活字版は、視認性に優れた特殊なフォントを使い、視覚障害者のみならず、老眼の進んだ方にも読みやすいもの(人ごとではなくなりました)、点字・点図版は、ほぼすべての図を点図という「触って知覚する図」にしたもの、暗闇でも読めるという画期的な本であります(が、晴眼者=目の見える人が触覚だけで理解するのはまず無理でしょう)。音声版はNHKラジオの番組をいくつも担当されている高山久美子さんと読み聞かせボランティアの松本福太郎さんの掛け合いが楽しいすぐれもの(これも暗闇OKです)。

 絵本は、ホシオくんが新しくできた天文台を訪ねるところから始まります。ウチュウ博士の手ほどきでいろいろな天体を望遠鏡で観察し,わくわく驚きながら,宇宙について学んでいく内容です。対象は未就学児から(子どもの心を忘れていない)大人まで。興味がおありの方は、読書工房までお問い合わせください。http://www.d-kobo.jp/16.html

2012年11月14日水曜日

2012年11月13日

プロジェクトリーダの長田です。京都大学理学部が昨年から始めた、九州講演会へ行って来ました。
http://www.elcas.sci.kyoto-u.ac.jp/fukuoka2012/
「益川名誉教授と京都大学理学部の教授による講演会 ノーベル賞の源へ」というもので、高校生を主な対象として理学の面白さを語るものです。

私は、益川さんの前座として、「銀河系中心のブラックホールが光る」という話をしました。こういった現象をとらえるのは、まさに3.8m望遠鏡がねらっていることです。
講演の後、高校生からの質問に答えるのはとても楽しかったです。その中に、「ブラックホールの強い重力場って、研究すると何がわかるんですか?」というものがありました。私にも確かな答えはできないのですが、「私たちはいまや電磁場というものを良く理解していて、そこからいろいろな応用も出てきているけれども、マクスウェルの方程式が出たばかりの19世紀後半には、磁石を動かして電気なんか作っていったい何の役に立つのか、と言われた。重力場についてはまだまだ何もわかっていない。」と答えました。(ファラデーが、生まれたばかりの赤ちゃんが何の役に立つのかと反問したという話(どうやら後世の創作)も残っています。)

ちょっと手違いがあって益川さんの到着が遅れ、私の質疑応答が終わった時にやっと来られたのですが、益川さんは益川さんで、「エジソンの直流送電は結局、時代の波に耐えられず敗れ去った。彼がマクスウェルの方程式、あるいはせめてファラデーの電磁誘導を理解していれば、ちょっと複雑であろうとも交流送電を行なっただろうに。」と話され、基本を理解することの重要さを説かれました。私としては、期せずして本当にちゃんと前座の話ができたのでした。(実はその講演をお聞きしつつ、さらに私の思いはさまよって、益川さんが「ぼくはクラシックばかり聴いている」と言ってらしたことから演奏にも基本が大事・・・と流れていきました、それについてはまたいつか書きましょう。)
とにかく、この望遠鏡でも、しっかりと基本を固めて開発を行なっていきたいと思った次第です。

2012年11月10日土曜日

2012年11月9日

今週も栗田がレポートします。

望遠鏡計画が進むにつれて私たちの仕事も忙しくなってきたため、新しく秘書(事務職員)さんを公募して日常の雑務を助けてもらうことにしました。
仲間が増えるということはうれしいですね。
そのために、広告代理店との打ち合わせを行いました。11月12日から公募広告がWeb上に掲載されます。また興味のある方は一足早くこちらhttp://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/psmt/koubo.htmlもご覧ください!

研究の方はというと、望遠鏡の主鏡(星からの光を集める18枚の鏡)を支える部分(写真)の開発が進みました。続々と部品が納品されて、岡山天体物理観測所の坂本さんと一緒に組み立てました。いろいろと僕の図面の寸法ミスで組み立てられない場所があったりして大変です。そういうバグだしをするのも組み立て試験の目的です。今は坂本さんが制御試験をしてくれています。うまく動くと良いのですが。。それではまた!

2012年11月5日月曜日

望遠鏡計画ブログ開始

2012年11月2日


望遠鏡計画のブログをはじめます。開発者、研究者らが週替わりで日頃の研究や計画の進捗をブログを通して皆さんにお伝えしたいと思います。

第一回目はプロジェクトマネージャの栗田です。

今日は公開シンポジウム「今、日本の宇宙戦略を考える」http://www.jsforum.or.jp/science-event/space_strategy/の事前ミーティングに参加してきました。このシンポジウムは文字通りこれから日本が宇宙開発、科学ミッションなどをどのように進めていくかということをエネルギーや情報、国際協力などの観点から考えるというものです。

ほとんどオブザーバーとしての参加でしたが、生存圏研究所の先生らと知り合うことができて良かったです。また、この計画で開発している望遠鏡の応用を再認識できました。その応用とはスペースデブリ探査です。

スペースデブリとは地球のまわりにあるゴミです。このデブリたちはこれまで人類が打ち上げてきたロケットや衛星の残骸です。大きさは塵のような小さなものから10メートルを超えるようなものまで様々です。このデブリたちはものすごいスピードで地球の周りを飛んでいます。たとえデブリの大きさが1ミリでも国際宇宙ステーションや人工衛星などにぶつかると大事故を起こしかねません。

近年このデブリがどんどん増えてきて、いよいよデブリがどこにあるのか知っておく必要性が出てきました。どうやってデブリを見つけるのか?それには望遠鏡がもっとも有効なんです。できるだけ光をたくさん集めることができる大きな望遠鏡でありながら、素早く動くデブリを追いかける必要があります。

そう、まさにこの計画で開発している望遠鏡に託された使命そのものです。天文学のために開発している望遠鏡も宇宙開発のお手伝いができるというわけですね。