2014年6月27日金曜日

ワールド研磨

こんにちは。鏡製作担当&日本代表サポーターの高橋です。

山本さんも触れておられましたが、ワールドカップ、面白い試合が多いですね。今大会、ブラジル開催ということで、やはり南米が強く、たとえ強豪とされるチームでも、ヨーロッパは苦戦している印象です。
アジアは、現時点(6/24)では一縷の望みがあるかどうか、といったところでしょうか。時差については、前回の南アフリカの方が試合を見易かったように思います。平日は少し厳しいですが、週末は2試合はしごで観たりしてしまいます。
いかん、いくらでも筆が進みそうですが、これだけで終わってしまっては。

ということで、今日は研磨についてのお話を少し。
現在、望遠鏡の鏡製作の最後のステップでは、鏡を、文字通り鏡面にするために研磨という工程を行っています。研磨は、ある意味ではガリガリと硝材を加工する研削と違って、柔らかいもので優しくゴシゴシ(?)と硝材を加工する工程です。
この工程には、N2C1300Dに増設された研磨機を使います。どんな機械かというと、バネによって圧力の調節ができる台にモーターがついたものです。
さらに、モーター軸の先につける研磨パッドを硝材の曲面に合わせられるように、2軸の首振り機能もついています。文字で説明しても、分かりにくいですね。百聞は一見にしかず、なので、写真で見て頂けば特徴はよく…分からないかも。

ここはひとつ、振り出しに戻って研磨という工程をもう少し詳しく説明してみます。砥石で削る研削との最大の違いは、「位置制御」ではなく、「時間制御」で加工量を調整しているということです。研削における加工量は、「砥石をどれだけ切り込んだか」によって決まります。もっと簡単に言うと、砥石が当たった所は物が無くなります。そのため、砥石をどこにもっていくか、「位置制御」が命です。

対して研磨は、パッドがどのぐらいの「力」で「何回こすった」かによって加工量が決まります。そのため研磨機は、力を調節するバネの台という機構と、「こする」ためのモーターがついています。何回こすったかは、モーターの回転数と、ある位置に留まる時間、回転軸からの距離によって決まりますが、モーターの回転数は一定にしているので、硝材がどれくらい加工されるかは、その上に「どのぐらいの時間乗っていたか」によって決まるのです。これを我々は「時間制御」と呼んでいます。あ、「力」も一定になるように制御しています。

研磨機は、砥石と同じコラム(上下、前後に動く柱)に設置しているので、鏡の好きなところを加工できるのですが、鏡の形状は、端に行くほど傾いています。これに対して、いつも垂直な向きのパッドでは「力、(圧力)」の制御もそもそも、パッドのどこが「こすって」いるのかを知るのも困難です。
そこで、曲面の法線にモーターの軸を合わせるための機能も付いている、というのが我々の研磨機です。なんとなくでも分かって頂ければ幸いですが…。

ということで、今回はW杯と研磨についてのお話でした。
最後に、優勝予想(願望)…オランダと悩んで、ドイツ!


ではまた。




2014年6月20日金曜日

眠れぬブラジルの日々

 はじめまして。山本と申します。
この4月から、観測装置開発を行っています。
どうぞよろしくお願いいたします。

 サッカーのW杯が始まりましたね。ありきたりな表現ですが、眠れない日々を過ごしている方も多いのでしょうか。私自身はブラジルという言葉を聞くと満腹感を憶えてしまうので、あまり真剣には見ていません。なぜお腹いっぱいなのかは、また後ほど。

 さて、まずは自己紹介として、私がしている/きたことを簡単におはなししたいと思います。
 現在私が開発しているのは、観測装置--松尾さんが前回紹介していた惑星撮像装置SEICA--の中の、補償光学という装置、のさらに中の、波面センサ、と言う部分です。入り組んでいますね。しかしながら、この部分の性能がSEICAの性能、つまりどれだけ暗い惑星を撮影出来るか、に直結します。責任重大です。責任重大なのですが、私はこれまで補償光学を利用することはあっても、開発することはなかったので、ただいま猛勉強中です。

 では、4月まで私が何をしていたのかというと、すばる望遠鏡を使った太陽系外惑星探しと、気球搭載型遠赤外線干渉計望遠鏡の開発、という二つの研究を行ってしました。前者の方が3.8m望遠鏡ともSEICAとも直接関わりそうな話題ですが、今回は後者のお話です。

 気球搭載型遠赤外線干渉計方式望遠鏡、これを英語でFar-Infrared Interferometric Telescope Experiment、さらに略してFITE--「ふぁいと」と発音します--です。遠赤外線とか干渉計などの、なんとも科学っぽい単語の中に、あまり天文とは関係のなさそうな単語がありますね。そう、「気球」です。気球搭載の望遠鏡とは、なかなか耳されないものかも知れません。しかし、望遠鏡と聞いて一番に思い浮かぶ、3.8m望遠鏡のような「地上望遠鏡」だったり、ハッブル宇宙望遠鏡のような「人工衛星望遠鏡」だけでなく、「ロケット」とか、FITEのような「気球」に搭載される望遠鏡もあるのです。

 なぜ気球なのでしょうか? それは、天文観測にとっての天敵である「地球大気」から逃れるためです。大気がどんな悪さをするかというと、1.大気による星像の乱れ、2.大気による吸収、3.大気による放射、です。細かい説明は省かせて頂きますが、1つめの要素をなんとかしよう、と言うのが、私が今まさに開発している補償光学装置の仕事です。しかし、2番目と3番目の要素は装置の改良ではどうにもなりません。特に、遠赤外線という波長の光は、非常に良く大気に吸収され、また非常に強く大気が放射するので、地上からの天体観測は絶望的です。解決のためにはもう、大気のないところ、つまり「宇宙」まで行かなければなりません。宇宙とくれば人工衛星、がベストな環境なのですが、時間もお金もかかるため、それよりはお手軽な、ロケットや気球に望遠鏡を搭載する、という選択肢が出てくるのです。

 しかし、この「天文観測用の気球」というのは、皆さんがイメージする気球ではありはするのですが、やはり規模が圧倒的に違うので、別物であるかも知れません。まず、この気球は大気の影響がほとんど無くなるような、30km以上の高高度まで上がります。「普通の気球」はおよそ数kmが限界高度だとおもわれるので、実に10倍近い高度です。さらに、1t近い望遠鏡を載せるために大きな浮力が得られるよう、非常に大きく、気球の直径が100m近くあります。

 さて、気球観測で一番大変なのは、実は「場所の確保」です。大きさゆえに、どこで開発するか、も問題なのですが、それ以上に「打ち上げ場所」の確保が問題です。先ほど気球は高度30kmまで上昇する、と言いました。それでは、観測が終わったらどうするのでしょうか? 正解は「気球と望遠鏡を切り離す」です。つまり、観測後の望遠鏡は地上に落下してくるのです。なので、「出来るだけ誰もいない広い土地」が必要になります。そこで気球観測実験は主に、インド、オーストラリア、アメリカ、そしてブラジルのような、草原/沙漠の広がった土地で行われます。おお、最初の話題に近づきましたね。

 実は2008年と2010年にそれぞれ2ヶ月ほど、ブラジルのロレナという、サンパウロとリオデジャネイロの中間に位置する街に滞在して、観測準備を行っていました。不運なことに、輸送トラブルと悪天候で観測は出来なかったのですが、ブラジル生活はたっぷりと、満喫出来ました。光学実験のためのちゃんとした暗室が作れなかったので、昼グループと交替で、夜は延々と暗闇の中で光学系の調整、と言う昼夜逆転した二交代制が一月近く続く日々。また、毎夕ほぼ毎日やって来る激しいスコールで、バンバンと送電がストップし、やっぱり暗闇で懐中電灯を使いながら手動の光学調整をやる日々。ブラジルのお肉料理・シェラスコはとてもおいしいのですが、毎日それしかない食生活………。いやぁ、、満喫しました。

 おっと、何やら愚痴のようですね。もちろん、日本では見られない、どこまでも続く草原や、厳しいが豊かな自然、日本と変わらないショッピングセンター、南十字星、上下逆さまのオリオン座!(南半球なので)などなどなど、とても強く心に残っている風景もありますが、2ヶ月×2という、眠られないブラジルの日々。なかなかやはり、お腹いっぱい、なのです。

 何の話か分からなくなってしまいましたね。世界のいろいろなところで、いろいろな天文観測が行われている、と言うお話でした。(そうでしたっけ?)


それでは。



2014年6月6日金曜日

世界一の望遠鏡の現状

光学など担当の岩室です。

 数日前まで宇宙物理教室のメールサーバーなど各種サーバーの更新作業をしていたのですが、この話はあまりにマニアックすぎるので、最近ちょっと気になっている世界一の望遠鏡の現状について web から取得できる情報を元に紹介したいと思います。(以下、**で囲まれている部分はリンクがありますので、クリックすると確認できます。)

 現在、世界一の望遠鏡はどういう望遠鏡か皆さんご存知でしょうか。
それはLBT (Large BinocularTelescope, 大双眼望遠鏡)と呼ばれる望遠鏡で、すばる望遠鏡よりも大きい口径8.4mの鏡を2枚搭載した主鏡面積としては口径11.9mの望遠鏡です。この望遠鏡、200510月にファーストライトを終えてから既に8年以上経過しているのに、なかなか論文が出てきません。これに関しては、科学誌のネイチャーでも昨年7月に取り上げられるなど、研究者の間では心配する声も上がっており、私も2002年に建設現場を見学に行ったこともあり気にはしていました。この望遠鏡、何が難しいかというと、16トンもある大きな主鏡の向きを正確に同じ向きに保って保持しないといけないことと、非常に巨大な可変副鏡(大気揺らぎを補正するために高速で形状変化する鏡で、上記リンクにあるビデオの後半に出てくるものです)を搭載していること、それに加えて巨大な観測装置の数々がどれも一筋縄ではいかないものばかりだということです。
 2012年のSPIE(装置関係の国際研究会)の収録には、主鏡の支持システムにはかなりの改良が加えられて同じ向きに保てるようになったとの報告がありましたが、昨年春には可変副鏡が氷結して故障し、長期わたる補修作業を余儀なくされています。
また、今年3月のユーザーズミーティングでの観測所状況報告によると、主要な装置はどれも問題を抱えておりなかなか大変なようです(あれもダメ、これもダメ、といった感じですね)。まあ、しかし2台目の可変副鏡もできてきたし、出版論文数も増えてきているので大丈夫でしょう、ということのようです。

 時間はかかりましたが、一通り問題は乗り越えてやっと本格稼動しそうな雰囲気なのですが、実はまだ解決できていない大きな問題があります。それは巨大ドームを支えるボギー台車です。LBT では建設コストを抑えたからか、1200トンもある巨大ドームをたった4台のボギー台車(62台+42)で支えています。
2012年のSPIEでは、このボギー台車の問題が報告されていますが、メンテナンスの事を全く顧慮せずに設計されているため、正しい向きに配置されていない1台の台車を交換修理できないそうです。







この問題は現在まだ解決されておらず、望遠鏡がいくら完成してもドームが動かなくなったら全く役に立ちません。

 とにかく、新しいことを始めるには大変な労力が必要だということの1つの事例ですが、ケチったところに足元をすくわれないように注意しなくては、ということを改めて感じさせるニュースでした。