2013年1月28日月曜日

夏に寒く、冬に暖か

鏡製作担当の高橋です
 
3.8m望遠鏡の主鏡を、岐阜県関市にある(株)ナノオプトニクス・エナジーの工場にて
製作しています。
岐阜県というと、白川郷が有名なためか非常に雪深いイメージをお持ちの方が
多いようですが、関市(武芸川町周辺)は雪国ではありません。
年に2~3回まとまった積雪がありますが、せいぜい1週間程度で融けてしまいます。
気温についても、「名古屋より少し寒いかな?」という程度で、大きな違いはありません。
 
では、何が「夏に寒く、冬に暖か」なのか?…それは工場内の気温です。
工場内の気温は、年間通じておよそ23度に保たれています。
夏に工場に入ると一瞬で汗が引いて爽快ですが、じっとしていると寒いです。
逆に冬は暖かく感じて快適に過ごせます。
 
寒い、暖かいと言っても、気温は一定なので、実は私の服装が季節によって
変化していることが原因なのですが、夏場にフリースを着こむ気には
なれないので、多少やせ我慢をしています。

さて、何のために工場の気温を23度に保っているのかというと、、
 
「機械のため」です。
 
望遠鏡の主鏡のように、非常に高精度な加工を要求される場合、
加工中の気温の変化は大きな問題になります。
主鏡等の材料であるクリアセラム Z-HS は温度に依存した伸び縮みが
非常に小さいですが、これを加工する機械は大部分が金属で出来ているため、
温度の変化による変形がおこります。鏡製作に使用している
(株)ナガセインテグレックスのN2C-1300Dは非常に高性能な加工機で、
機械動作の再現性(同じ指令で動かした時の動作の違い)が50nm以下という数値を誇りますが、
これも気温が一定に保たれていてこそ。そういう意味では、恒温の部屋とセットで一つの
機械と考えることができるかもしれません。

これは聞いた話ですが、長年こういう環境で仕事をされている方の中には0.1度の違いを
肌で感じることが出来る方がおられるようです。絶対音感ならぬ絶対温感、というところでしょうか。
私自身はまだまだそんな感覚は持ち合わせていませんが、いつか身につくのか、
少しわくわくしながら毎日を送っています。

 
 
 
 
 

2013年1月18日金曜日

2012/1/18


観測装置担当の松尾です。

最近、岡山県浅口市の中学校に出前授業をしてきました。岡山県浅口市は、国立天文台の岡山天体物理観測所があるところで、50年以上にわたって日本の天文学を引っ張ってきました。京大3.8m望遠鏡は、その観測所内に建設予定で、後継機として活躍が期待されています。今回はこのようなご縁があって、浅口市教育委員会の企画のもと、中学校での出前授業という貴重な経験をさせていただきました。

今回の出前授業では、私が専門の「太陽系外惑星(太陽と同じ恒星を周回する惑星)」の話をしました。この太陽系外惑星という分野は、現在は天文学・地球惑星科学の分野に留まっておりますが、将来的には「宇宙生命」を通して化学・生命学という大きな広がりをもった学問です。宇宙生命といっても、私たちの知っている「生命」は地球上の生命だけです。そこで、宇宙生命の発見に向けた科学的なアプローチとして、まず「地球のような惑星(例えば、地球生命に欠かせない水をもち、また海や陸をもつ惑星)」を発見し、その中から「生命を宿す惑星」を詳しく調べて「生命の痕跡」を発見することになります。出前授業では、太陽系の惑星を出発点として、太陽系外惑星の現状、そして将来の宇宙生命探査への取り組みのお話をしました。授業が進むにつれて、宇宙に生命がいるかもしれないという「期待」と、それが近い将来に分かるかもしれないという「興奮」が生徒からひしひしと伝わってきました。生徒の反応を生で感じることが出来て、とても良かったです。

最後になりますが、小学校−中学校−高校、そして大学が連携して、子どもが「夢」や「目標」をもてるような教育を行なうことが大事だと感じました。そのためには、最先端の研究をしている人間が大学だけでなく、小中高の教育現場に足を運んで、教科書で学べない「新鮮なこと」を直接伝えることが必要です。私は、京大3.8m望遠鏡を使って、まだ見ぬ「新しい世界」を開拓し、それが子どもたちの刺激になるように頑張りたいと思います。

2013年1月4日金曜日

新年のご挨拶


SARIFの評議員、附属天文台長の柴田です。

あけましておめでとうございます。

昨年は、京大天文台恒星研究グループの「太陽型星のスーパーフレア」の研究成果がNatureに出版され、大いに盛り上がりました。スーパーフレアというのは、太陽で起きている最大級のフレア(太陽面爆発)の10倍以上のエネルギーを解放する爆発現象です。通常の大フレアでも、人工衛星の故障、通信障害、停電などの被害が起きますから、スーパーフレアがもし太陽で起きたら、地球規模の社会インフラ(通信、電力、交通)の障害など大災害が起きると考えられます。

これまでは、スーパーフレアは若い星や近接連星系、ホットジュピター(星近くの木星くらいの巨大惑星)をもつ星、などでしか起こらない、つまり我々の太陽では起こらない、と信じられていました。ところが、太陽と良く似た星(太陽型星)を8万個、ケプラー探査機を用いて調べましたら、何と、148個の太陽型星で365回のスーパーフレアを発見したのです。

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/120517_1.htm

しかもこれらの星にはホットジュピターを持つ星が一つもなかったので、スーパーフレアはホットジュピターがなくても起きる、つまり、我々の太陽でも起こる可能性がある、ということになったのです。ただし、発生頻度は、最大級の太陽フレアの100倍~1000倍のスーパーフレアの場合800年~5000年に一度という程度ですので、すぐに心配することはありませんが、一昨年の東日本大震災の大地震が1000年に一度くらいでしたから、これは遠い未来の話ではなくて、現在の問題としてとらえるべきだと思っています。

もし太陽でスーパーフレアが本当に起こると大変なことになるので、少しでも可能性が否定できないならその対策・準備が必要です。そのためには、やはり、太陽に良く似た星をもっと時間をかけて観測し、スーパーフレアを起こした太陽型星はどれくらい太陽と似ているのか、スーパーフレアの発生条件は何か、前兆現象は何か、など、明らかにする必要があります。太陽型星の詳しい長期観測が必要です。

実はこういう観測をするのに、3.8m望遠鏡は世界で最も適しています。長期にわたり観測日数を多くとって分光観測ができるし、また、突然発生したスーパーフレアをいち早く詳細に分光観測することも可能です。ぜひ、早く3.8m望遠鏡を完成させて観測を開始し、太陽型星のスーパーフレアを解明して、未来の人類社会の安全に貢献したいと思います。

一方、太陽型星の活動の観測は過去の太陽活動を解明する上でも重要です。太陽型スーパーフレア星の観測から、「太陽(恒星)活動は地球(惑星)環境にいかなる変動を与えたのか?」、「太陽(恒星)は生命の進化にどんな影響を与えたのか?」、「なぜ我々は生まれたのか?」という疑問を解明するためのヒントすら得られる可能性があるのです。

思い起こせば、50年以上前、私が小学校に入ったころ、毎日「自分はなぜここにいるのか」という疑問ばかり考えていました。結局、この子供のときの疑問の答えが知りたくて、宇宙の研究者になったのですが、ついにその疑問に私なりのアプローチで迫れるようになって、ワクワクしています。しかも、単に過去の謎が解明できるだけでなく、「人類の未来」の災害を軽減することにも貢献できる、ということで、恐ろしい話の割にはワクワクしています。このワクワク感を皆さんと共有できれば幸いです。

今年もよろしくお願いします。

201212