光学など担当の岩室です。
現在、3.8m 望遠鏡で使用する分光器の開発を進めています。
この分光器は天体の赤外線スペクトルを調べるもので、なかなか大変な装置です。今回はこの装置の入れ物の紹介です。
微弱な天体からの光を調べる天文学の観測装置にとって、関係のない周囲からの光は大敵です。可視光で使う装置は余分な光が装置内に入らないように、入射窓以外の部分は密閉することで周囲の光を遮断していますが、赤外線はそういうわけにはいきません。
なぜなら赤外線は温度のあるもの全てから放射されているからです。
特に分光器の場合は天体からの光を波長ごとに分けて更に微弱にしてしまうため、周辺からの光の影響をより受けやすくなります。
そのため、赤外線の装置は装置内部の壁をできるだけ(この装置の場合マイナス200度まで)冷却する必要があります。
壁を0度より低い温度まで下げると結露します。そのまま時間が経つと、内部の全ての物が昔のアイスクリームの販売容器のように霜だらけの状態になり、全く使えません。
そのため、赤外線の装置は真空容器に入れて全ての気体を吸い出して真空とし、その状態で冷却する必要があります。3.8m 望遠鏡で使用する赤外線分光器は、できるだけ多くの情報を得るためにかなり大型の装置となっており、それを格納する真空容器も1m を超える大きなものとなります。
大きな真空容器は地球の大気圧との戦いとなります。
地球の大気圧は1平方センチあたり約1kg で、1平方メートルだと10トンにもなります。これだけの力に耐え、かつ確実に真空を保持できる構造にするには、通常はできる限り球面や円柱を組み合わせた形となるのですが、その場合、内部の光学系の設置や取り扱いがしづらくなります。現在開発中の分光器は、光ファイバーで天体からの光を導くため、装置を観測ドームの1階に置くことができ、重量の制約がありません。そのため、メンテナンス性を重視して産業界で用いられるような箱型の真空容器を使う事にしました。
この箱は 1.7m×1.3m×0.7m のサイズのアルミ製(厚さ 5cm)で、ちょっと幅の広い浴槽位のサイズです(重さ1トン)。光ファイバーや電気系の配線は全て底面から入るので、逆さまの重箱の容器部分を引き上げるような感じで側面兼天板を外すことができ、重いですが内部のメンテナンスが非常にやりやすいのが利点です。
この箱は、電子ビーム溶接という特殊な溶接方法で製作されています。
上の写真は容器の一部の側面の拡大写真で、黄色の丸の中央で縦に溶接されているのですが、完全に一体化しているため、どんなに目を凝らして見ても溶接されている事が全くわかりません。最近の溶接技術の高さに感心した瞬間でした。
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