2016年6月13日月曜日

日常生活には 役に立たないです

リーダの長田です。

書くネタを考え考え、帯に短しタスキに長しと思い悩みつつ小田嶋さんという人のコラムを見ていたら、「ヘタに検索しに行くと、不必要な情報や他人の考えに構想を傷つけられることがあって、それは原稿を書く人間にとって大変に厄介な展開なのだぞ」とあり、「自分の(拙劣であるかもしれない)アイディアに、あくまでも拘泥し続けるエゴの強さ」が大事だとさとされ、その言葉をかみしめているところです。そこで、全く勝手な意見を述べるんですが、、、

昨夜のニュースで鈴木キャスターが「役に立ちません、と、あんなにもハッキリ言われてしまうと・・・」と美しく微笑んでいましたが、113番目の元素を合成したからといって、もちろんそれが近い将来に新薬になるわけでも経済の活性化につながるわけでもなさそうです。
ただ、私のような人間はどうしてもその後に「とは言っても・・・」と、実は基礎科学が将来どれだけ役に立つ可能性を秘めているかと付け足してしまいたくなるのですが、ここのところ老人力がついたのか、そこで潔く終わってしまうのが良いのではないかと、最近は勝手に思っているのです。

先日、一般向けの講演で重力波の検出の話をした際に、とても遠慮がちではあるもののやはり「重力波って何に役立つのですか」という質問がありました。私は電磁波とのアナロジーでずっと話をしていたので、作り話らしいともことわりつつ、150年あまり前にファラデーの電磁誘導の実験が役に立つのかと批判した人に向かって「電気にはそのうち税金をかけるようになりますよ」「まさか」という会話が交わされたとのエピソードがある、と言いました。
  英語のページならちゃんと元の言葉だって載っているのではないかとウェブで調べてみると、"Why, Prime Minister, someday you can tax it." とか "Whatuse is a newborn baby?" とかのバージョンがありました。ところが、さらに、これらにはファラデーとフランクリンが一緒くたに出てきて、そして完全に作り話、都市伝説だとハッキリしました。良く考えてみれば、わが英雄のファラデー(ホントにすごい人だと思います)が、そんなハシタナイことを言うはずがない気がしますね。

さて、役に立たない元素の合成を機に原子核の図表を見返してみて、やはりどう考えても不思議なのは、今回のとは全く逆側の軽い方の端で、安定な質量数58の原子核が存在しないことです。質量数8のベリリウムが極めて不安定ということのために、ビッグバンでの元素合成が進まなかったのだ、そしてこの不安定さが絶妙なのでその後に星の内部ではそれにヘリウムがぶつかって来ることが起こり、炭素ができ、酸素ができたのだと聞かされると、宇宙の素晴らしさに感激するのでありました。
もしもヘリウムに水素がぶつかった質量数5のリチウムが存在してさらにぶつかって重い元素ができていったり、ヘリウム同士の衝突でできた質量数8のベリリウムが安定だったりしたら、ビッグバンの時に宇宙は安定な重い原子核がすべてできてしまっておしまい、水素の核融合で星が輝くこともなく、生命も誕生せず、となっていたのでしょう。これも役に立たぬ話かもしれませんが、面白いですよね!

なんで役に立つとか立たんとかばっかり言うねん、おもろいかどうかが人生でいちばん幸せをさゆうすることやロウ! 責任者出てこい!「出てきたらどないすんのん?」あやまったらしまいや!(またまたお借りしてすんません、この文は325日のこのブログから思いついて、じっと持ってました。)



図:ウィキペディアより、原子核の図表。縦軸に陽子の数、横軸に中性子の数を
    取っていて、上記の話は左下隅、質量数278のニホニウムは右上隅のあたりの
    話。





2016年5月30日月曜日

人生初のお菓子爆買い体験

  こんにちは。広報・サイエンス担当の野上です。

  唐突ですが、皆さん大人買いってされたことはありますか?最近の言葉でいうと爆買いでしょうか。私はつい先日、お菓子で約20万円分の買い物をしました!

  現在の地球最大の望遠鏡は、日本が誇るすばる望遠鏡を含む、口径が8mから10mの望遠鏡です。そして、口径30mの次世代大望遠鏡建設計画が進んでいることをご存知の方もいらっしゃるでしょう。アメリカが主導し、日本も積極的に参加しているものは、そのまんまの名前で30m望遠鏡(Thirty Meter Telescope; 略して TMT)と呼ばれています。
ハワイに建設予定ですが、地元住民の方との調整が、、、となっている例のアレです。

  私はTMT計画はこれまで横目で眺めるくらいの関わり方でした。というのも、すばる望遠鏡でもうまく観測提案が認められたとして年に数日しか観測ができないのに、TMTになればうまくいって年に数時間という感じになりかねません。突発天体・現象の観測やスーパーフレア星の長期観測などを考えている私には、安定して長い時間の観測ができる我らが3.8m望遠鏡の方がよほど重要だからです。このように望遠鏡にはそれぞれ向き不向きがあり、解明したい謎によって望遠鏡や観測装置を使い分けることになります。

  さて、このTMT計画の重要な会議であるTMT Forum 2016というのが、先週524()から26()に京都で行われました。私もその会議に組織委員の一人として関わることになり、お茶・お菓子係の担当になりました。朝一の会議が始まる前、午前中のコーヒーブレイク、午後の会議が始まる前、午後のコーヒーブレイクと、14(26日はプログラムの都合上3回のみ)のコーヒーやお茶菓子を用意するのが仕事です。人数のそれほど多くない国内の会議だと、インスタントコーヒーと湯沸かしポットと紙コップのセット、コンビニで売っているようなお菓子を並べておくだけで終わり、ということも多いのですが、140人くらいの参加者のうち、100人くらいが外国人。しかも参加費を一人2万円(半分以上は夕食会の開催費になりました)も取っているということで、そういうわけにはいかない、「おもてなし」の心を発揮しなければ!ということになりました。

  とは言いつつ、コーヒーのサービスはケータリングの会社にお任せしました。会社名は出しませんが、会議の会場でコーヒー豆を挽いてレギュラーコーヒーを出してくれる結構本格的なもので、下手な喫茶店よりよほどおいしいコーヒーを、しかもかなりリーズナブルな価格で出してもらえて感謝しています。他に500mlペットボトルのミネラルウォーターや烏龍茶、緑茶、麦茶なども出しました。

  そしてお菓子についても、これもケータリング会社に頼めなくもなかったのですが、ありきたりというか無難なものしかカタログになかったので、こちらで購入して出すことしました。せっかくの京都の会議、京都らしいお菓子を出そう!と。しかし、普段お菓子にそれほど興味のない私は、どんなものを出したらよいのかよくわからないまま、学生さんの提案に従ってデパ地下に行ってみました。

  するとまー、いろんなお菓子があるものですね。1500円を超えるような上品かつきれいなザ・和菓子みたいなものから、おまんじゅう・大福系、どら焼き、羊羹、金平糖、おかき、せんべいなどなど。さすが京都。で、爆買いですよ。なんせ140人分ですから。この小袋で16袋入っているおかきの箱を8箱下さい、とか、このわらびもちを店にあるだけ下さい、とか。人生初のお菓子の爆買いを楽しんでしまいました。
店を出る時には、ニュース報道で見たような両手いっぱいに紙袋を持った状態です。これを3日ばかり続けました。

  朝の会議が始まる前には、会議の組織委員長から「朝食を食べそこねた人のためにパンを出して欲しい」という要望がありました。「そんな無茶な」と思いながら、私の家の近くの100均パン屋さん(消費税込108)に相談してみると、「なんとかしましょう」と言ってもらえて、連日140個のパンを朝740分くらいに買いました。ここのパン屋さん、100円とは思えないクオリティのパンを普段から出していて、感謝の意味を込めてここで宣伝しておきます。マルモベーカリー深草店です。お世話になりました。


  ということで、飲み物やお菓子のことばかりを考えていた先週の1週間でした。写真は国立天文台のTMT推進室のwebページに出ているTMTの完成予想図です。










2016年5月13日金曜日

暗い話

こんにちはプロマネの栗田です。
現在ドーム建設予定地では順調に工事が進んでいますが、ドーム周辺の照明設備について検討を進めています。というのも常識的には人の往来や緊急時のことを考えると照明をつけることになるのですが、かすかな星からの光を観測するにはできるだけ暗い夜空が大切になり、それに対して街灯を含めた人工的な光は天敵となってしまうからです。

というわけで、今回は天文学者たちがどんな工夫をして人工的な光を使わないように、もしくは外に漏らさないようにしているかの裏舞台を箇条書きで紹介いたします。

・施設内の窓にはすべて遮光カーテンが施されています。普通のカーテンと違って結構厚くて重たいです。
・通常時は廊下などの明かりも消えていて真っ暗です。懐中電灯なしでの宿舎での移動は慣れるまでは怖いですね。
・玄関のドアは2重扉だったりします。映画館の入り口のようにガラス張りでないドアが2重になっていている構造の施設もあります。
・観測者に貸し出す鍵には小さなLEDのキーホルダがついていたりします。観測者が暗闇の中でもカギ穴を見つけやすくするためです。
・道路は真っ暗で路側帯に白線が塗られていたりガードレールがあり、月明かりでも目立つようになっています。
・観測所内での車での移動中はハザードランプのみで運転します(これって私有地だとしても道交法に違反してるのかなぁ)。


写真は南アフリカのサザーランドにある望遠鏡ドームを長時間露出で撮影したものです。ドームから天頂に向かって縦に延びる淡い部分は天の川で、星々の円弧の中心が天の南極です。昼間に天の川!?と見えるのは月明かりで照らされたドームや大地を長時間露出で撮影したためです。ドームの右手に伸びる影は日陰ならぬ月影です。この写真からも人工的な光源がほとんど無いことが分かると思います(いや、ドーム内の観測装置の赤と靑の発光ダイオードがかなり強烈に光ってますね。。失礼いたしました。。)。





2016年4月22日金曜日

年度初めは計画初め

惑星観測装置担当の山本です。

 まずは、先日発生した平成28年熊本地震によって被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、一刻も早い復旧と復興をお祈り申し上げます。我々の天文学研究はこうした災害に対して、直接何もすることも出来ませんが、個人として出来ることをやっていこうと思います。
 以下、今私に出来る事のひとつとして、いままで通りの内容のブログを書かさせて頂きます。

 2016年4月下旬です。新しい年度の初めということで、昨年度出来たことを振り返ると共に、本年度以降にどういう風に研究を進めていくかを考えるタイミングでもあります。
 昨年度出来たこととは?
 まずは、我々の開発している惑星観測装置SEICA(せいか)に搭載予定の、新方式計測装置の理論的な実証を行った論文の出版や、その計測装置の核になる新しい光学素子の試験製作、性能評価などを行いました。結果は上々で、本年度はいよいよ計測装置本体の設計・組み立て・試験を行っていきます。
 また、同じくSEICAに搭載する、地球大気の影響を抑制して系外惑星を観測出来るようにする装置、補償光学装置の開発を行い、今月に入っていよいよ実験室での試験が行えるようになってきました。本年度は補償光学装置の性能評価を行い、我々が目指す目標を達成できるよう、改良を加えていきます。
 さらに、実際に望遠鏡に搭載するSEICA本体の製作・組み立ても始めています。昨年度中には組み立て手法の確認・確立ができたので、これを参考に本体の設計・製作を進めていきます。
 
 昨年度末からばたばたと作業しているうちに、桜もすっかり散ってしまい、いよいよ暖かい日が続くようになりました。

 

京都御所の桜

 
 
 およそ半年後、次回の報告にはさらに進んだ開発状況について報告させて頂ければ、と思います。
それでは!



2016年4月7日木曜日

忙しい...

光学など担当の岩室です。

 あっという間に3月も終わり、新学期が始まりました。この時期は例年忙しいのですが、今年は大きな研究費の終了/開始と TMT 関係の仕事が重なり、てんてこ舞いの状況です。

 まずは TMT 関係の話から。
TMT (国際協力で推進中の 30m 望遠鏡)で研究を行なう予定の研究者が集まって、毎年1度大きな会議が行われるのですが、今年は5月末に京都で行なうこととなりました(過去3回は全て米国)






3.8m 計画を進めているメンバーも何人かはこの会議の準備に参加しています。
米国、カナダ、中国、インドなどから100名前後の参加者(もちろん日本人も数十名)を迎える必要があるのですが、食も文化も違う人々への対応は予想外の事が一杯起こりそうで、心配ではありますが貴重な経験になると思います。
例えば、食事に提供するものなどは、全て何が含まれているか明示しないといけない、とかです。通常であれば、外部の業者に丸投げして全てお任せとかにするのでしょうが、貧乏性で、ホテルの取りまとめも含めてついつい全部自力で進めています。TMT に関しては、今後も色々報告する機会があるかと思いますので、この会議の結果はまた次回以降にでも報告します。

 次に、新しい分光器の話。
3.8m に取り付けるための新しい近赤外分光器を製作するための予算が確保できました。これで、3.8m 望遠鏡にも新たな「装備」が1つ加わる訳ですが、これまた、何から何までほぼ全て自力でやる計画なので、通常では考えられない予算規模で作らないといけません。DIY で自宅を建設するようなものです。






前年度までの研究結果の報告書を書き、今年度から始まる上記分光器の主要部分の部品の見積りを再度確認して、より具体的な申請書を準備しないといけません。更に、可視光の高分散分光器も現在予算申請中で、これも 3.8m 望遠鏡の重要な「装備」の1つなのですが、こちらも作るとなると更に大変です。分身の術が欲しいですね。

 最近、X 線の天文衛星にトラブルがあり、関係者のショックは察するに余り有ります。私自身、20002月の Astro-E (X 線天文衛星)打ち上げ失敗をインターネット生中継で見ており(この時所属していた研究室の半分以上はX線天文の研究者でした)、大変な努力で5年半という驚異的なスピードで再打ち上げを成功させた経緯を見てきただけに、それよりも更に2倍近く大きい衛星のトラブルは絶望的に近い状況です。地上の望遠鏡の開発は、それに比べれば頑張れば何とかなる部分が多いので、これだけ困難な仕事が山積でも頑張れるかなと思う今日この頃です。




2016年3月25日金曜日

観測しない観測

プロの天文学者は、晴れていれば夜な夜な観測していると思われているらしい。しかし、今や観測しないで観測するケースも多い。「観測しない観測?何のこっちゃ?」と思われるだろうが、「まぁ皆さん聞いてください」(人生幸朗風に)。
 1年程前に、リモート観測について書いた。私もこの間についに岡山観測所のリモート観測を経験した。しかし、近年観測しない観測モードもあるのである。一例を挙げると、すばる望遠鏡のサービス観測である。観測時間が4時間以内だとサービス観測という枠に申請することができる。採択されると、観測所の担当者が、申請者の代わり観測を実行してくれるというものである。気づいたら(?)観測データがでているので、これをもらって自分達でデータの処理・解析を行う。
 ところがもっと上(?)を行くのはALMAである。ALMAでは採択された観測課題を申請者本人が観測することはない。観測所が責任をもって観測を実施してくれるのである。確かにわざわざチリの高地まで観測に出かけるのも大変だし旅費もかかるので、申請者自身が観測するのは能率が悪いという面がある。また、ある種の気象条件を満たさないとできない観測は、何月何日に観測ですとあらかじめ決め打ちできないので、観測所の判断で実行する観測プログラムを組み替えながら観測を実施するようにしている。このため一つの観測プログラムが細切れになって観測されることもある。次々と適切な観測プログラムを走らせることによってロスタイムを最小化しようという意図もある。
他人の観測だと、どこまで観測したらいいのかわからないのでは?と思われるかもしれない。その通りで、観測でとらえたいシグナル(信号)は人によってまちまちであるから、目標が達成されたのかどうか観測担当者にはわからない。担当者がいちいち観測プロポーザルを熟読して理解するのも大変であるし誤解も起こるだろう。そこでALMAでは、目標とするノイズレベルを申請者があらかじめ設定し、観測担当者がこれを達成したことを確認して観測を終了するという仕組みをとっている。もう少しで有意に信号が検出されるというような状況になっていたとしても、そんなことは知ったことではなく、非情にも設定ノイズレベルを達成したところで観測終了というわけである。
さらに驚くべきことに、ALMAでは、観測終了後のデータ処理までしてくれるのである。ALMAは干渉計であり、そのデータ処理はなかなかややこしく、素人にはとっつきにくく難しい。干渉計のデータ処理に習熟している人は多くはない。そこでALMAによる観測成果を最大化するために、仮に理論屋さんが「観測」したとしても、すぐに観測結果を見て論文にすることができるように、という趣旨で行なわれているようである。私も野辺山宇宙電波観測所等の干渉計での観測経験があるが、非常によく習熟しているとは言えないので、ありがたいことはありがたい。しかし、そうは言っても、やはり人の観測目標はよくわからないし、見たい部分に十分配慮したちゃんとした処理済みデータがでてこないケースもある。実際、私も奇妙な観測設定やデータの処理で非常に困惑し大いに苦労したことがある。最近は正しい観測とデータ処理がなされているようであるが、初期の頃は結構アブナイ感じであった。
このようなシステムは、「観測者」にとっては便利であり、あるいはユーザー拡大という意味では意義があると考えられる反面、人材の育成という点では注意が必要なように感じる。世界中が単なるユーザー集団になってしまわないように気をつけないといけない。
ところで、ALMAのこういったシステムは、観測せずとも既存の処理済データで研究を行なうことができることも意味する。ALMAの処理済みデータは周波数毎の画像データであるので、申請者が目的とした天体(のある部分について)以外の情報も含んでいる。このような偶然観測された天体を対象とした研究も可能であり、実際こういった研究結果はたくさん出つつある。観測データの有効利用であり、観測したくない人(いなくもない)・観測提案が採択されなかった人々にもある意味朗報と考えるべきなのであろう。
いろいろ勝手なことを書きましたが、ALMAの大いなる研究成果、そして皆様のご健康とご多幸をお祈りしつつ、本日のぼやき(だったのか!?)を終わらせていただきます。(うーん、定型だな)
 
太田 2016321日 




ALMA望遠鏡(国立天文台提供)。
電波干渉計であり、たくさんの望遠鏡を使って1台の大きな望遠鏡として観測する。






2016年3月11日金曜日

「ブラックホール天文学」という世界

 本を出しました(2016年1月刊行)。今回の本は、一般向けではなくて、大学に入って天文学の研究を始めようとしている学部~大学院学生向けの教科書『ブラックホール天文学』(日本評論社)です。
 本書のテーマは、「宇宙のエンジン:ブラックホール」です。ブラックホールは宇宙に多大なエネルギーを「供給する」エンジンということです。「吸い取る」ではなく「供給する」です。これは「ブラックホールとは、何でも吸い込む怖い穴」という常識に反しますね。なぜそういうことになるのでしょうか? それが本書のテーマです。
 理屈は難しいのでここには記しませんが、ただ、「ものごとには両面がある」
という「人生の知恵」のようなものがここでも通用する、とだけコメントしておきましょう。「頼りがいがある人」と思ったら、じつは「自己主張の強いだけの人」だったとか、「優柔不断でいらいらさせる人」と思ったら、「いろいろな立場を理解し面倒みてくれる苦労人」であったとか、そのように人を多面的にとらえる智恵に通じるものがあります。
 さて、私は本を書くとき、とくに理系の難しい本を書くとき、できる限り身近な例にたとえて解説するように心がけています(まだまだ未熟ですが)。すると、天体現象においても、人間社会と共通することが見えてきます。三角関係が好例です。人間社会で三角関係は不安定の象徴ですが、三つの星の集まりもやはり不安定です。互いに同じ距離を保ちながら回転しているうちはいいのですが、中の二つの星が接近するとバランスが崩れ、一気に破滅に向かいます。3つ以上の星の集まりは不安定で長続きしないのです。
  しかし、太陽の周りを多くの惑星が何十億年も周り続けています。不思議です。じつに不思議です。それだから地球上で生命が生まれ、進化し、私たちがここにいるのですが、やっぱり不思議です。そう思いませんか?

(嶺重 慎)



『ブラックホール天文学』(日本評論社)