2019年11月19日火曜日

マルチメッセンジャー天文学事始:その後の重力波

 201941日から、米国のアドバンスド・ライゴ(advanced LIGO)とヨーロッパのアドバンスド・バーゴ(advanced VIRGO)等が連続観測を開始し(O3ランという)、10月はメンテナンスでお休みだったが(49月をO3a11月からをO3bと呼ぶ)、この間の様子を少し記そうと思う。

我々が最初に受けたアラートは、S190408anというイベントであった(48日世界時に検出)。これは連星ブラックホールで、距離は1473Mpc(これは光度距離で、新聞や雑誌で普通に使う言葉で言えば、33億光年に対応)というものであった。その後、ぽつぽつアラートが出たが、ほとんどは連星ブラックホールであった。10月までのアラートの統計をとってみたところ、連星ブラックホールからの重力波は、1週間に1回程度の頻度で発生している。最初の重力波検出(150914)では連星ブラックホールということで大変オドロイタのであるが、今や日常茶飯事になってしまった。150914では太陽の30倍程度の質量のブラックホールの連星ということで、これにも驚いたが、これらのイベントの多くもそのような重いブラックホールで、その起源が気になるところである。また、こういった系からは強い重力波が放出されるため、多くのイベントは遠くて、33億光年というのもびっくりするほど遠いものではない。現在これを書いているのは11月だが、連星ブラックホールというアラートが来ても、「ああ、またか」という感じで、昔の興奮はどこに行ったのか、と思ってしまう。連星ブラックホールの場合は、合体しても電磁波を出す積極的な要因が見出せず、また、あっても非常に弱いと予想される。しかも何十億光年も離れているとみかけの明るさは絶望的な暗さになると予想され、我々の望遠鏡では(すばるは別かもしれないがそれでも非常に厳しいであろう)、とても検出は難しい(検出が困難なのと他の変動天体との峻別が困難)ので、早い時期から諦めモードになった。連星ブラックホール出現の報には、「ああまた出たか。今回もスルー」という立場を取らざるを得ない。毎週何も見えないであろう天体を一所懸命に探すのはあまりに非効率的である。

そこで、連星中性子星の合体や、中性子星とブラックホールの連星の合体とされる重力波に集中することにした。これらは中性子星があるので、電磁波で輝くと予想されるからである。実際、170817では、電磁波が検出され、理論モデルとの比較でいろいろな知見が得られた。これも10月までの統計で見ると、年間に数回程度の頻度が見込まれる。また、連星の片一方の星の質量が太陽質量の3-5倍と推定される場合には、(ブラックホールの最小質量と中性子星の最大質量の間という意味で)mass gap(質量のギャップ)と呼ばれるケースに分類され、これも興味深いケースなので、こういうイベントが出ると張り切って観測を実施することになる。

201988日(世界時)には、久々に連星中性子星の可能性が高いアラートが出た。可能性としては40%程度だったのでやや微妙ではあるが、日本では午前中だったので、朝からJ-GEM内では盛り上がり、今夜は観測だ!と張り切っていた。が、夕方になる前にこのアラートは撤回されてしまった。まあ観測前だったので被害(?)がなかったということで良しとするかという感じであった。ところが822日(世界時、日本時では午前10時頃)には、ナント確率ほぼ100%の連星中性子星イベントが報じられた。しかもこれは近くて、170817の再来か!と、また興奮状態に陥った。しかし、2時間後には撤回された。。。829日にはmass gapイベントが出たが、これは位置不定性が大きく、なんか変だなと思っていたら、撤回された。という感じで、気のせいか(いや、多分統計を取ると気のせいではないと思うが)、連星中性子星とか中性子星とブラックホール連星、mass gapのイベントは、撤回されるものが多いと思う。一体何が原因なのかよくわからないが。と、いう感じで、今のところ、電磁波対応天体発見には至っていない。国際研究会でも何の報告もないので、世界中誰もその後電磁波をとらえたイベントはなさそうである。

20191110日に、バースト型と分類されるアラートが来た。これは初めてみるイベントで、皆さんびっくりした。バーストに分類されるのは重力波の波形モデルを介さずに検出されたものであるが、連星系ではないだろうから、多分超新星であろうということで、初の超新星検出か!と大騒ぎになった。超新星が起源だとすると、もともと重力波は弱いので、近傍宇宙で発生したことになり、J-GEMでは距離は数十kpc程度内だろうという話になった。数十kpcというのは、お隣の銀河とよく称されるアンドロメダ銀河(M31)よりもずっと近く(M31600kpcの距離にある)、我々の銀河のまわりを回っている、大マゼラン、小マゼラン銀河程度ということである。超新星1987Aみたいのが出るかもしれない!ということでわくわくした。ただ、南天が主な領域なので、日本から観測可能な領域はわずかであった。近傍銀河のカタログを元に北天の可能性のある銀河は観測してみたが、特に何もない。南天は、IRSFとかB&CMOAIIといったJ-GEM連合の望遠鏡が活躍できる。一方で、このような近距離で超新星が爆発したら、南半球の人なら目でも見えるかもしれない。そういった報は何もなくて、皆で不審に思っていた。しかし、超新星爆破で重力波が到来しても、電磁波で輝くまでには時間がかり、1-2日は遅れる可能性もあるので、もうしばらく様子を見ることにした。やがて、大マゼラン銀河で新星らしきものが出現という報があったので、これをMOAIIB&C望遠鏡で観測したところ確かに増光天体が見つかった。しかし、これはその後他の天文台でスペクトルが取られ、超新星ではないことがわかった。残念。

ところで、この距離で超新星爆発が起これば、時間差がさほどなくニュートリが出ると予想されるので、スーパーカミオカンデ(SK)でニュートリノ検出があったのかどうか、J-GEM内で話題になった。大マゼラン銀河中での超新星1987Aでは、カミオカンデでニュートリノを検出できたのだから、SKなら確実にニュートリノを検出できるはずである。しかし、残念ながら我々はSKとホットラインがなく、また緘口令がひかれているのかもと疑ったりしていた。1114日にSKを運用している宇宙線研究所に行く用事があったので、同研究所のSKには直接携わってない知り合いに聞いてみたら、あっさり「何も検出されてない」との返事。やはりどうも怪しいなあ、と思っているうちに1115日に撤回。うーん、なんて人騒がせな、、、もう少し早く撤回して欲しかったなあ。
と、いう日々が続いている。

     太田記

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