2014年4月7日月曜日

特別展「明月記と最新宇宙像~千年を越えて羽ばたく京の宇宙地球科学者たち~」

  天文台長の柴田です

 今年の93日~1018に、京大総合博物館で、特別展「明月記と最新宇宙像~千年を越えて羽ばたく京の宇宙地球科学者たち~」が開催されることになりましたので、皆様にお知らせします。
これまで京大総合博物館では、宇宙に関係した企画展として、2008年に「京の宇宙学」、2011年に「はやぶさ帰還カプセル特別公開」、2012年に「日食展」が開催されました。われわれ(附属天文台と宇宙物理学教室のスタッフや院生)は、そのつど全面的に協力してきました。「京の宇宙学」は京大全体の宇宙関係の研究成果を紹介するのが目的、「はやぶさ」は帰還カプセルの公開、「日食展」は京都で282年ぶりの金環日食に合わせて開催、というふうに、色々な理由がありました。しかし、今回のきっかけ(開催理由)はちょっと面白いのです。
皆さんご存知のように、藤原定家の日記「明月記」には超新星の記録が残されています。20世紀前半、欧米の天文学者たちは「かに星雲」が膨張していることを発見し、大きさと速度から、千年ほど前に爆発した星の残骸である(らしい)ことを明らかにしたのですが、ヨーロッパの古い文献をいくら探しても、爆発(明るい天体の出現)の記録が見つかりませんでした。それで「かに星雲」の正体は長らく謎のままでした。そういう時代に、日本のアマチュア天文家・射場保昭(Iba Yasuaki)氏が、「明月記」の中に「1054年おうし座付近(「かに星雲」の位置)に木星くらいの明るさの客星出現」という記述がある、ということを、英文で欧米に知らせたのです。1934年のことでした。これがきっかけとなり、(中国や韓国にも独立の記録があったこともあって)、「かに星雲」を作った爆発の正体が、「超新星」であることが確立されたのです(Mayall and Oort 1942, PASP 54, 95)。ここまでは良く知られた話なのですが、「アマチュア天文家・射場保昭」とはいかなる人物か?というのが、全く謎でした。
20106月に、京大名誉教授の竹本修三先生(地球物理学)が、私に次のようなメールを送って来られました:
『明月記を英文で紹介した日本人は誰だろうかということが話題になり、たまたまその頃、「宇宙と生命」の研究会のときに柴田さんから、「それは射場保昭氏である」というお話をお聞きしました。そこで、いろいろ調べてみましたが、その経緯は添付ファイルの6163ページに書きました。ここまでは分かったのですが、射場氏の生年、没年や本職は何をやっておられた方かについては、依然不明です。』
その後、竹本先生がこの原稿をHPにアップされておられたところ、201258日、竹本先生より
『射場保明氏に関するビッグ・ニュースです。氏の二男(満家氏:76歳)がご健在だということが最近わかりました。』
とメールが送られてきました。射場保昭氏の二男の射場満家氏が、インターネットを検索中に竹本先生の原稿を読まれ、
『私は射場保昭の二男です、、、』
というメールを竹本先生に送って来られたのです。連絡を受けて、私も竹本先生と一緒に満家氏にお会いしました。それで一気に射場保昭氏の顔(添付写真)や生没年(18941957)、本職(肥料輸入商)などが明らかになりました。
しかも、興味深いことに、射場保昭氏は、京大花山天文台の初代台長である山本一清博士(18891959)とも親交があり、山本博士の影響を受けていたことが、山本天文台アーカイブの解析から冨田良雄さんによって明らかにされました。山本博士は、日本人で最初の国際天文学連合の委員会の委員長として国際的に活躍するだけでなく、多くのアマチュア天文家を育てたことで知られています。そのアマチュア天文家育成の結果として、明月記の記録が世界に知られるようになり、最先端の天文学の発展に貢献したのです。何とおもしろいめぐり合わせでしょうか。
今回の京大総合博物館での特別展は、こういう京大ならではの、ユニークな宇宙地球科学研究の歴史を明月記とともに展示し、超新星や天体爆発現象に関連した最新宇宙像を紹介します。さらに、かに星雲の解明に貢献した歴史は、現在も天体爆発現象の解明に世界で最も威力を発揮する3.8m望遠鏡の開発という形で、脈々と受け継がれている、というアピールもしたいと思っています。関係の皆様には、ぜひご協力をお願いします。(ここには書ききれませんでしたが、おもな展示内容は、「山本一清博士」、「明月記」、「最新宇宙像」、「射場保昭氏」のほか、「京大宇宙地球科学のパイオニア達」、「石塚睦博士」に関する展示もあります。また、期間中には4次元宇宙シアターや天体観望会も特別開催します。)


射場保昭(いば・やすあき)氏
18941957)(射場満家氏より)

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