2014年6月6日金曜日

世界一の望遠鏡の現状

光学など担当の岩室です。

 数日前まで宇宙物理教室のメールサーバーなど各種サーバーの更新作業をしていたのですが、この話はあまりにマニアックすぎるので、最近ちょっと気になっている世界一の望遠鏡の現状について web から取得できる情報を元に紹介したいと思います。(以下、**で囲まれている部分はリンクがありますので、クリックすると確認できます。)

 現在、世界一の望遠鏡はどういう望遠鏡か皆さんご存知でしょうか。
それはLBT (Large BinocularTelescope, 大双眼望遠鏡)と呼ばれる望遠鏡で、すばる望遠鏡よりも大きい口径8.4mの鏡を2枚搭載した主鏡面積としては口径11.9mの望遠鏡です。この望遠鏡、200510月にファーストライトを終えてから既に8年以上経過しているのに、なかなか論文が出てきません。これに関しては、科学誌のネイチャーでも昨年7月に取り上げられるなど、研究者の間では心配する声も上がっており、私も2002年に建設現場を見学に行ったこともあり気にはしていました。この望遠鏡、何が難しいかというと、16トンもある大きな主鏡の向きを正確に同じ向きに保って保持しないといけないことと、非常に巨大な可変副鏡(大気揺らぎを補正するために高速で形状変化する鏡で、上記リンクにあるビデオの後半に出てくるものです)を搭載していること、それに加えて巨大な観測装置の数々がどれも一筋縄ではいかないものばかりだということです。
 2012年のSPIE(装置関係の国際研究会)の収録には、主鏡の支持システムにはかなりの改良が加えられて同じ向きに保てるようになったとの報告がありましたが、昨年春には可変副鏡が氷結して故障し、長期わたる補修作業を余儀なくされています。
また、今年3月のユーザーズミーティングでの観測所状況報告によると、主要な装置はどれも問題を抱えておりなかなか大変なようです(あれもダメ、これもダメ、といった感じですね)。まあ、しかし2台目の可変副鏡もできてきたし、出版論文数も増えてきているので大丈夫でしょう、ということのようです。

 時間はかかりましたが、一通り問題は乗り越えてやっと本格稼動しそうな雰囲気なのですが、実はまだ解決できていない大きな問題があります。それは巨大ドームを支えるボギー台車です。LBT では建設コストを抑えたからか、1200トンもある巨大ドームをたった4台のボギー台車(62台+42)で支えています。
2012年のSPIEでは、このボギー台車の問題が報告されていますが、メンテナンスの事を全く顧慮せずに設計されているため、正しい向きに配置されていない1台の台車を交換修理できないそうです。







この問題は現在まだ解決されておらず、望遠鏡がいくら完成してもドームが動かなくなったら全く役に立ちません。

 とにかく、新しいことを始めるには大変な労力が必要だということの1つの事例ですが、ケチったところに足元をすくわれないように注意しなくては、ということを改めて感じさせるニュースでした。



0 件のコメント:

コメントを投稿