プロの天文学者は、晴れていれば夜な夜な観測していると思われているらしい。だが、一般にはそうではない。以前にも書いたが、国立天文台の岡山天体物理学観測所188cm望遠鏡やハワイのすばる望遠鏡といった共同利用望遠鏡で観測する場合には、まず観測申請をする必要がある。審査を経て採択されたものだけに望遠鏡時間が割り当てられる。倍率は望遠鏡によるが、典型的には2-5倍程度であろうか。そして割り当てられる夜数は、半年で数夜とかそんな感じである。なかなか厳しいのである。
さて、今回はその内幕を暴こう。久しぶりにすばるTACメンバーを拝命した。正式名称は「すばる望遠鏡プログラム小委員会」であるが、観測時間を割付けるので、Time Allocation Committeeとも呼ばれ、通称「すばるTAC」というわけである。ここで審査が行われ採否が決まる。
研究者が申請する研究提案をプロポーザルという。プロポーザルには大概以下のようなことが書かれる。①提案する研究課題を明示し、その問題がいかに重要なのかを説明する。②この問題を解くにはこういった観測量が必要で、それがわかるとこう解決する。③そのような観測は実際に実行可能である。と、いった具合である。
この9月に締切のあったすばるのプロポーザル数は200弱であった。これを分野別に約10のカテゴリに分ける(基本は申請者の自己申告にもとづく)。各カテゴリに5人のレフェリーをつけて査読してもらう(レフェリーには外国人も含まれる。TACメンバーはレフェリーにはならない)。そして、いくつかの観点からスコアをつけてもらうと共に評価ポイントも書いてもらう。むろん、プロポーザルの提出者や共同研究者は自身のプロポーザルの審査はしない。
TACではレフェリーのスコアを集計して、最終的な採否の判断を行なう。レフェリーからのスコアの平均で概ねの採否は決まるのであるが、TAC委員としては、自分なりの評価を行い、レフェリーが何か勘違いして不当に高い(低い)スコアをつけていないかといった点もチェックし、必要なら高スコアでも採択をせず逆に低スコアでも採択することもある。また、ボーダー付近のプロポーザルは特に注意を払って採否を決めていく。更に、観測所の装置担当者が、本当に観測可能なのかどうか技術的な審査をした結果も勘案しなければならない。どんなにすばらしい研究課題であっても、観測不可能であっては実施できないからである。
しかし、これだけではまだ足りない。よいプロポーザルをどんどん採択していくと、現実には観測割り当てができなくなることが起こる。例えば2-3月でないと観測できない天体がターゲットでしかも暗夜(月のない夜)でないと困る、というようなプロポーザルがたくさん採択されると、割り付け夜数がパンクして破綻してしまう。このような場合は比較的高スコアでも採択には至らないことがある。逆にすいた時期だとスコアが少し位低くても採択されることもある。その他、現在のすばる望遠鏡ではこの手の外的条件が増えていて、今回10年ぶり位でTACの仕事をしたが、極めて複雑で大変な割付作業になっていた。採択会議はみっちり2日間三鷹で行なわれ、2日目の夕刻にはくたくたになって帰路についたのであった。
注:実際のTACの仕事はもっとあるが紙幅の関係で省略した。また、上記のような採択方式はどこの天文台でも同じかというとそうでもなく、いくつかの方法がある。すばるTAC自身でも時代によって少し違う場合もある。
2015年11月7日 太田耕司
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