2014年6月20日金曜日

眠れぬブラジルの日々

 はじめまして。山本と申します。
この4月から、観測装置開発を行っています。
どうぞよろしくお願いいたします。

 サッカーのW杯が始まりましたね。ありきたりな表現ですが、眠れない日々を過ごしている方も多いのでしょうか。私自身はブラジルという言葉を聞くと満腹感を憶えてしまうので、あまり真剣には見ていません。なぜお腹いっぱいなのかは、また後ほど。

 さて、まずは自己紹介として、私がしている/きたことを簡単におはなししたいと思います。
 現在私が開発しているのは、観測装置--松尾さんが前回紹介していた惑星撮像装置SEICA--の中の、補償光学という装置、のさらに中の、波面センサ、と言う部分です。入り組んでいますね。しかしながら、この部分の性能がSEICAの性能、つまりどれだけ暗い惑星を撮影出来るか、に直結します。責任重大です。責任重大なのですが、私はこれまで補償光学を利用することはあっても、開発することはなかったので、ただいま猛勉強中です。

 では、4月まで私が何をしていたのかというと、すばる望遠鏡を使った太陽系外惑星探しと、気球搭載型遠赤外線干渉計望遠鏡の開発、という二つの研究を行ってしました。前者の方が3.8m望遠鏡ともSEICAとも直接関わりそうな話題ですが、今回は後者のお話です。

 気球搭載型遠赤外線干渉計方式望遠鏡、これを英語でFar-Infrared Interferometric Telescope Experiment、さらに略してFITE--「ふぁいと」と発音します--です。遠赤外線とか干渉計などの、なんとも科学っぽい単語の中に、あまり天文とは関係のなさそうな単語がありますね。そう、「気球」です。気球搭載の望遠鏡とは、なかなか耳されないものかも知れません。しかし、望遠鏡と聞いて一番に思い浮かぶ、3.8m望遠鏡のような「地上望遠鏡」だったり、ハッブル宇宙望遠鏡のような「人工衛星望遠鏡」だけでなく、「ロケット」とか、FITEのような「気球」に搭載される望遠鏡もあるのです。

 なぜ気球なのでしょうか? それは、天文観測にとっての天敵である「地球大気」から逃れるためです。大気がどんな悪さをするかというと、1.大気による星像の乱れ、2.大気による吸収、3.大気による放射、です。細かい説明は省かせて頂きますが、1つめの要素をなんとかしよう、と言うのが、私が今まさに開発している補償光学装置の仕事です。しかし、2番目と3番目の要素は装置の改良ではどうにもなりません。特に、遠赤外線という波長の光は、非常に良く大気に吸収され、また非常に強く大気が放射するので、地上からの天体観測は絶望的です。解決のためにはもう、大気のないところ、つまり「宇宙」まで行かなければなりません。宇宙とくれば人工衛星、がベストな環境なのですが、時間もお金もかかるため、それよりはお手軽な、ロケットや気球に望遠鏡を搭載する、という選択肢が出てくるのです。

 しかし、この「天文観測用の気球」というのは、皆さんがイメージする気球ではありはするのですが、やはり規模が圧倒的に違うので、別物であるかも知れません。まず、この気球は大気の影響がほとんど無くなるような、30km以上の高高度まで上がります。「普通の気球」はおよそ数kmが限界高度だとおもわれるので、実に10倍近い高度です。さらに、1t近い望遠鏡を載せるために大きな浮力が得られるよう、非常に大きく、気球の直径が100m近くあります。

 さて、気球観測で一番大変なのは、実は「場所の確保」です。大きさゆえに、どこで開発するか、も問題なのですが、それ以上に「打ち上げ場所」の確保が問題です。先ほど気球は高度30kmまで上昇する、と言いました。それでは、観測が終わったらどうするのでしょうか? 正解は「気球と望遠鏡を切り離す」です。つまり、観測後の望遠鏡は地上に落下してくるのです。なので、「出来るだけ誰もいない広い土地」が必要になります。そこで気球観測実験は主に、インド、オーストラリア、アメリカ、そしてブラジルのような、草原/沙漠の広がった土地で行われます。おお、最初の話題に近づきましたね。

 実は2008年と2010年にそれぞれ2ヶ月ほど、ブラジルのロレナという、サンパウロとリオデジャネイロの中間に位置する街に滞在して、観測準備を行っていました。不運なことに、輸送トラブルと悪天候で観測は出来なかったのですが、ブラジル生活はたっぷりと、満喫出来ました。光学実験のためのちゃんとした暗室が作れなかったので、昼グループと交替で、夜は延々と暗闇の中で光学系の調整、と言う昼夜逆転した二交代制が一月近く続く日々。また、毎夕ほぼ毎日やって来る激しいスコールで、バンバンと送電がストップし、やっぱり暗闇で懐中電灯を使いながら手動の光学調整をやる日々。ブラジルのお肉料理・シェラスコはとてもおいしいのですが、毎日それしかない食生活………。いやぁ、、満喫しました。

 おっと、何やら愚痴のようですね。もちろん、日本では見られない、どこまでも続く草原や、厳しいが豊かな自然、日本と変わらないショッピングセンター、南十字星、上下逆さまのオリオン座!(南半球なので)などなどなど、とても強く心に残っている風景もありますが、2ヶ月×2という、眠られないブラジルの日々。なかなかやはり、お腹いっぱい、なのです。

 何の話か分からなくなってしまいましたね。世界のいろいろなところで、いろいろな天文観測が行われている、と言うお話でした。(そうでしたっけ?)


それでは。



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