先日、たまたま手にした藤原正彦著『国家の品格』(新潮新書)の中に、興味深い記述を見つけました。
「天才は人口に比例してあちこちから出現しているわけではない。どんな条件がそろうと天才が生まれるのか」という問いを携えて、藤原氏は天才数学者の生まれ育った故郷を訪ね歩きました。そして、天才を生む土壌には三つの共通点があることに気づいたのです。その第一条件が『美の存在』。インドが生んだ天才数学者、ラマヌジャンが育ったクンパコナムという田舎町を訪ねて、その確信を深めたといいます。そしてこう書いておられます「このクンパコナムの周辺からは、ラマヌジャン以外にも天才が出ています。二十世紀最大の天体物理学者と言われ、ノーベル賞ももらったチャンドラセカール・・・(中略)・・・も半径三十キロの円に入るくらいの小さな地域の出身です。その土地に存在する美が、天才と深い関係にあるのは間違いないと思います」。
チャンドラセカールは、「ブラックホール天文学」という学問分野を創始した人といっても過言ではないでしょう。その原点が美しい田舎町にあったと知って、妙に親近感を覚えたのでありました。
さらに藤原氏は、日本はその『美の存在』する国であると論を進めるのでありました。まさにその通りだと実感します。写真は数年前、5月半ばに長野県の上高地を訪れたときの写真です。まだ観光客も少なく、草木がようやく長い冬の眠りを終え芽吹き始めたころ、朝の散歩をしていると、樹上では小鳥がすんだ声でさえずり、地上ではニリンソウが慎ましやかに緑の絨毯に白いアクセントをつけています。とうとうと流れる梓川の川辺からふと見上ると、穂高連峰が朝日に美しく映えていました。まさに『美の存在』体験でした。
(嶺重 慎)
5月の上高地風景 |
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