2013年7月5日金曜日

ガンマ線バーストと残光と3.8m望遠鏡



 ボードの吉田です。本日はガンマ線バーストについて、おはなししようと思います。
 
3.8m望遠鏡の観測対象の一つは、ガンマ線バーストと呼ばれる天体現象である(*)。ガンマ線バーストとは、宇宙の一角から突然強力なガンマ線が地球に降り注ぐ現象である。
 
 このガンマ線バースト、1960年代にアメリカの核査察衛星が発見したのは、あまりに有名な話である。ソ連の核実験を監視(核実験をすると大量のガンマ線が出る)していたアメリカの軍事衛星が、突然、目もくらむようなガンマ線が空から降り注ぐのを観測したのだ。軌道上で核実験か? 一体どこで? だが、軍事衛星はその後も次々と空からやってくる超強力なガンマ線を捉え続けた。これは自然現象に違いない。この結論が得られるまで5年の歳月を要した。かくして1973年、正体不明の自然現象ガンマ線バーストが世に知られることとなった。
 
 天文学・物理学業界は、騒然となった。こんな現象は、誰一人として予想していなかった。天体がガンマ線を出すというだけでも驚異なのに、空の一点から、衛星のガンマ線検出器が一瞬で飽和してしまうほどの強力なガンマ線が来るとは! しかも、あっという間に消える。一体何なんだ。数々の理論が提唱され、観測機器が開発された。
 
 だがそれから実に30年間、問題は解決しなかった。ガンマ線観測専用の科学衛星がいくつも打ち上げられた。確かにガンマ線バーストはたくさん検出された。
データは膨大に蓄積された。しかし、いくら観測してもその正体が分からない。
そもそも、これが太陽の近くで起こっている現象なのか、宇宙の果てで起こっている現象なのか、それすら分からない。ガンマ線放射源のエネルギーにして、実に100×100億倍(!)近い不定性があった。こんな根源的なレベルで分からない天体現象も珍しい。それが30年近くも続いたのだ。

 そして1997年。世の中は変わる。この年の228日、ガンマ線バーストが起きた。観測した衛星がこのバーストを素早くX線でも観測したところ、強いX線源を見つけた。早速、地上の望遠鏡がその位置に向けられた。すると、それまで何もなかったところに可視光で光る天体があるではないか! それはみるみる暗くなり、すぐに見えなくなった。ガンマ線バーストの「残光(アフターグロー)」の発見である。ガンマ線バーストは、何と可視光の残光を残すのだ。可視光で詳しく調べればガンマ線バーストの正体が分かるかもしれない! 天文学者達は望遠鏡を用意して待ち構えた。そしてその年の58日、再びガンマ線バーストの可視残光が捉えられた。その残光が消えた後、そこにはかすかにぼーっと光る天体があった。それは、何十億光年も彼方の銀河であった。ガンマ線バーストは、はるか彼方の銀河で起こっていた現象だったのである。
 
 その後、世界中で、ガンマ線バースト残光の観測研究が精力的に行われた。X
線、可視光、電波などさまざまな電磁波を出す残光は、ガンマ線だけでは到底分からない数多くの物理情報を与えてくれた。その結果、ある種のガンマ線バーストは遠くの銀河で起きる星の大爆発であることが分かった。宇宙最大の爆発現象である。人類は、発見から30年以上を経て、ようやくガンマ線バーストの正体をつかみ始めたのだ。

 しかし、新たなナゾも数多く発生した。一体どうしてこんな強力なガンマ線が出るのか? どんな星が爆発すればこんなことが起きるのか? 星の爆発では説明できないガンマ線バーストもあるが、その正体は何か? 宇宙最初期に生まれた星もガンマ線バーストを起こすか? これらのナゾは今でも解決されていない。解決のカギは残光観測だ。

 ガンマ線バーストは何の前触れもなく突然起こるし、どこで起こるかも分からないし、おまけにすぐに消えてしまう。だからこそ、日本上空で発生したときに、すぐに観測できる体制を整えておかなくてはならない。機動性があり、大集光力を持ち、最先端の観測機器を搭載した望遠鏡。それこそ我らが3.8m望遠鏡である。ガンマ線バーストの解明は、3.8m望遠鏡の大きな使命の一つなのだ。
 
・・・・

 華々しい爆発だけをいくら見ていても、ガンマ線バーストの正体は分からなかった。爆発の残滓、消えゆく残り火が、その正体を垣間見せた。3.8m望遠鏡は、そんな残光を追いかけ、さらに深くその正体に切り込んでいくだろう。

 


 

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