2016年7月14日木曜日

似非科学

制御担当の木野です。

巷では水素水なる健康飲料?が流行っているようですね。以前からあるアルカリイオン水をはじめ、科学的な根拠が無い/薄いものに対してもっともらしい理由をつけて高値で売りつける、いわゆる「似非科学」の一つなわけですが、まじめに科学研究をしている身にとっては迷惑な存在でもあります。

3.8m望遠鏡では人の目で見える可視光線と、それより少し波長が長い近赤外線と呼ばれる電磁波を使って星を観測します(電磁波の名称については下図を参照)。この「電磁波」や「赤外線」という言葉も世間一般では間違って理解されていたり、似非科学のターゲットになっていたりします。携帯電話や送電線から放射される電波が体に悪いと広まったせいで(これすら確固たる証拠は無いはずです)、可視光線なども含め電磁波全体が悪という印象を持っている人が多い一方で、赤外線は健康ブームで担ぎ上げられ良いイメージが定着しているという矛盾状態。最近ではTHz(テラヘルツ)波まで健康に良いとされてきて、まさにカオス状態です。

赤外線に対する間違った理解として挙げられるのは、スパイ映画などで赤外線カメラを使うとコンクリート壁の向こう側に居る人が見えるといったシーンでしょうか。実際には赤外線の透過能力はそれほど高くはなく、空気中の細かな霧や塵で見通しが悪い場合には可視光線と比べて見えやすいといった程度です。この若干の透過力の高さに加えて、サーモグラフィのように暗闇でも物が見えることが混同されて映画のようなイメージが作られたのかと思います。

また、炭火での調理や一昔前に流行ったハロゲンヒーターなどの暖房器具では「遠赤外線で中からホカホカ」といった表現が使われますが、赤外線が身体の中まで入り込める深さは1ミリメートル程度です。掌の静脈による生体認証で使われる、人体を透過しやすい波長でもせいぜい数ミリメートルまでで、とても体の芯から~とはいきません。そもそも、これらの加熱器具ではエネルギーの大半が近赤外線として放射されています(遠赤外線も出てはいますが・・・)
遠赤外線での調理というと石焼き芋を想像する方もいるかと思いますが、甘くて美味しいのは70℃前後の温度を維持すると芋の中の酵素がデンプンを糖に分解するからであって、これも遠赤外線は関係ありません。実際、電子レンジ調理でも解凍モードなどの弱い出力で長時間加熱すれば甘くなります。

そもそも可視光線~近赤外線は太陽の光の主成分ですし、中間~遠赤外線は人体をはじめ常温の物体が常に放射しています。赤外線自体は身の回りに満ちあふれた存在であり浴びないようにするのは困難ですし、少しくらい多く浴びたからといって、より健康になるわけでもありません。やたらと効能を謳ったり、不安をかき立てるような似非科学に踊らされず賢く生きましょう。

とはいえ理学部にもマイナスイオンが出てくる製品が置いてあったり、工学部で建築工事を始める前に地鎮祭を行ったりと、大学というのも科学だけでは説明できない不思議な空間だったりします。






電磁波の波長と名称。学生に赤外線について説明するときにはこんな図を使います。
テレビのリモコンや携帯電話の赤外線通信に使われるのは人の眼に見える可視光線から少しだけ赤外線側に入った波長です。また同じ加熱調理用の器具でも炭火と電子レンジでは使っている波長が全く異なります。





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